【論説】安倍晋三首相が所信表明演説を行った。「政策の実行、実行、そして実行あるのみ」と訴えた割には、具体的な政策の提示は乏しかったと言わざるを得ない。

 首相の自己都合による衆院の唐突な解散・総選挙で多くの重要法案が年明けの通常国会に先送りされた。そのせいもあり、演説は安倍内閣で最も短いものになった。中身の無さは特別国会の会期が残り3週間と短期であり、本格的論戦にならないとみたのであれば不誠実極まりない。

 北朝鮮を巡る防衛力の強化、子育てや介護の受け皿整備、農林水産業対策など巨額の予算が必要になりそうな課題を並べ立てながら、「財政健全化も確実に実現」と何の根拠も示さなかったのも無責任だ。目立ったのは自らの成果へのアピールであり自画自賛だ。

 演説の冒頭、衆院選で自らが「国難」に掲げた北朝鮮情勢に関して、トランプ米大統領の来日で「日米同盟の揺るぎない絆を世界に示した」と強調。一方のトランプ氏は日米首脳会談の会見で「首相は大量の(米国製)軍事装備を購入するようになるだろう。米国で多くの雇用が生まれ、日本はより安全になるだろう」と述べた。

 F35戦闘機など具体的な装備名を挙げるなど、「米国第一」を掲げ「ディール(取引)」を優先するトランプ氏の術中にはまった格好ではなかったか。首相は「絆」というが、「米国追従」に映った国民も少なくないはずだ。

 北朝鮮との対話姿勢を重視する中国の習近平(しゅうきんぺい)国家主席は特使を派遣。行き詰まりの打開に向け動きだした。一方、安倍首相は相変わらず「圧力強化」を叫んでいるだけだ。演説では「積極的な外交政策を展開する」とも訴えたが、何をどう展開するのか。拉致問題の解決も「使命」ならば、包囲網構築と並行して対話の糸口を探るべきだろう。

 少子高齢化は以前から問題視されてきた。ここにきて「力強く、踏み出す時」と訴えられても、遅きに失したというほかない。「生産性革命」「人づくり革命」などを看板に掲げ、斬新さを演出するが、看板の掛け替えにしか映らない。

 11カ国によるTPP(環太平洋連携協定)やEU(欧州連合)との経済連携協定などをアベノミクスの「新しいエンジン」と表した。ただ、米国抜きのままではそうもいえないはずだ。農業など反発する関係者向けに「農林水産新時代」を掲げた。守り抜くとした「豊かな中山間地域」はますます耕作放棄地化している現状を知るべきだ。

 首相宿願の憲法改正には、与野党の建設的な論議を求めるにとどめた。その前段で、自民党が野党時代に行ったミニ集会などを殊更取り上げたのは奇異に映った。民進党の解党など野党のふがいなさを暗に示した節がある。さらには「森友、加計学園問題」は一切触れずじまいで「丁寧に」「真摯(しんし)に」はひと言もなかった。衆院選でリセットされたと考えるならば、「1強」の慢心そのものだ。

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