【越山若水】水月湖底に堆積した「年縞(ねんこう)」の研究で知られる立命館大教授、中川毅さんは英国の大学で教員を務めていた。その経験を講談社のPR誌「本10月号」に書いている▼採用面接でこんな質問を受けた。「講義が始まって約30分。学生の注意力が散漫になり、あくびをかみ殺す学生も散見され始めた。さあ、あなたはどうする」▼予期しない質問に中川さんは困り果てた。そしてひねり出した返答は「冗談を言って笑わせる。それで無理なら休憩を入れる」。正解はもっと後で知ることになる▼同大には新任講師向けの教育スキル訓練がある。そこで教わった正答は「トップダウン形式の講義を中断し、クイズや体を使う活動を導入する」だった。中川さんは学生目線の授業を心がけたという▼安倍晋三首相がきのう所信表明演説を行った。憲法改正に向け「与野党の枠を超えて議論を」と意欲を示す。各党の賛否にはまだ隔たりがあるのに、随分と前のめりである▼「人づくり革命」と威勢のいい看板を掲げて、幼児教育の無償化を断行すると意気盛ん。それでいて財政再建も実現するという▼ひたすら自説を開陳する様子はまさにトップダウン型の講義。具体論も乏しく国民や野党には納得し難い内容だ。今国会は選挙前に反省した「謙虚」を胸に、議論と説明をじっくり積み重ねてほしい。「年縞」ほどではないにしろ…。
 

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