【越山若水】吉田兼好の随筆「徒然草」第四十五段は、ある高名な僧侶のエピソードを描いた短編である。うわさ話に振り回される怒りっぽい人柄を面白おかしく紹介している▼延暦寺の良覚僧正の家の傍らにエノキの大木があった。そこで人は「榎木(えのき)の僧正」とあだ名を付けた。憤慨した僧侶はエノキを切ってしまい切り株だけ残った▼すると今度は「切杭(きりくい)の僧正」と呼ばれた。意に沿わない僧侶が切り株を掘り起こすと、跡地が池のようになった。ついには「堀池の僧正」の名前を頂戴したという▼この段で兼好法師は良覚僧正の愚行を笑っているだけ。ただし第七十三段では「世に語り伝ふる事、多くは皆虚言なり」と記述。うわさ話にいちいち反応せず、悠然と構えるのが肝心だと助言をする▼高僧のこぼれ話と法師の進言を聞き、ふと思い浮かんだ人物がいる。何事にも反応し即座に反撃のツイートをするトランプ米大統領だ。フォロワーは約2千万人といわれる▼アジア歴訪中も、北朝鮮の金正恩党委員長にかみついた。「私が決してチビでデブだと言わないのに、なぜ私を老いぼれ呼ばわりし侮辱するのか」▼核問題で厳しく警告したトランプ氏。北の挑発に怒り心頭かと思いきや「友達になろうと頑張っているのに…」と皮肉たっぷり。真意は測りかねるが、兼好法師から見ればどっちもどっち。冷静さが大切である。

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