しかし、中国ではリスクが現実になる可能性が高かったことや、信用調査が厳しいクレジットカードが世の中に浸透しにくいことなどから、アリペイのようなリスク回避のシステムが出来上がった。

アリペイが確立したシステムは「お互いを信じる」「安心して買い物ができる」という、日本の商習慣では当たり前の相互信用の考えに基づいて構築されたものだった。北京の友人は「まじめにいい商品を作らなければお客様に買ってもらえないし、きちんと代金を支払わなければ、欲しい商品は手に入らない。そういう日本人から見ればごく当たり前のことや信頼関係を、このシステムを使うことによって中国人は知ったのです」と話していた。

スマホを駆使して社会をよい方向へ

中国ではかつて文化大革命などがあった影響で、他人に裏切られたり、他人を信用しすぎると自分が生き残れなくなると人々は考えてきた。そのため、社会全体としてはまだ“性悪説”が前提だ。

信用しても裏切られる。裏切られるから信用しない。だまされる自分のほうが悪いのだ……そうした考え方から、家族や親友だけを「身内」とし、それ以外の人々(他人)にはつねに警戒し、バリアを張っていた。それが中国社会を殺伐とさせていた。だからこそ、スマホ上で管理でき、自分はリスクを負わずに済むアリペイという簡単な仕組みが驚異の発達を遂げたのだ。

ところが今、こうした中国社会に広がっていた“性悪説”は思いがけない現代的な形で大きく覆ろうとしている。

スマホを駆使して社会をよい方向に変えていこうという、後発者の中国ならではの取り組みだ。それは、中国人の心に「人を信用し、信用される喜び」を植えつけ、「よい行いをする人」をITで作り出していくシステム「芝麻(ごま)信用」である。

これはアリペイのアプリの1つで、簡単にいえば、自分の評価をまとめた採点表のようなもの。採点の結果、よい行いをすれば自分の評価が高くなって、悪い行いをすれば評価が下がるというものだ。アメリカにある「クレジットスコア」という仕組みとほぼ同じだ。

政府に認定された正式な評価基準ではないが、2015年1月に導入されて以降、急速に利用者が増加し、2017年6月現在、約3億5000万人もの人が利用している。これまで中国では個人の信用を客観的に測るものがなかったので、初の試みだ。

ポイントが高いほど「社会的信用」が高まる

アリペイは自社の決済システムを利用した人々から、膨大な情報を得ている。そのビッグデータを今後政府と連携して、社会のあらゆるものに活用していくプロジェクトが動き出しているが、そのデータをもとに個人情報を自動的に分析、それを点数で評価しているのが、この芝麻信用だ。

たとえば、シェア自転車をきちんと返却したか、公共料金を毎月支払っているか、交通違反をしていないかなど、アプリに残るさまざまな履歴データを分析し、素行がよければ、芝麻信用のアプリに自動的にポイントが加算されていく。

評価基準は明確には公表されていないが、ポイントが高ければ高いほど、その人の「社会的信用」が高まり、日常生活がしやすくなる。日本人的には、そこまで個人情報を取り出されることに空恐ろしさも感じるが、もともと情報が管理されていることが当たり前だった中国では、個人情報やプライバシーに対する意識は薄く、人々の間では個人情報を吸い上げられるというマイナスよりもスマホ決済のメリット(利便性)を優先する気持ちのほうが勝っている。

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