【論説】トランプ米大統領のアジア歴訪の先陣を切って開かれた日米首脳会談。共同記者会見で安倍晋三首相は「日米の強固な絆を確認した」と意義を強調した。だが、北朝鮮情勢を巡りミサイルなど防衛装備品の購入を促されたり、不均衡貿易の是正を要求されたりし、「ディール(取引)」優先を旨とするトランプ氏の術中にはまったかのような印象も拭えない。

 トランプ氏は、政権中枢の新たなロシア疑惑の発覚や、相次ぐ銃乱射事件、支持率の低下など、政権基盤を脅かされるような内憂を抱える。内政をカバーするために外交では「米国第一」を一層打ち出しそうだ。追従一辺倒の日本には危うさも漂う。自重を求めたり、時にはいさめたりするなど、より対等の関係が求められている。

 北朝鮮を巡り、首相は相変わらず軍事力行使を含む全ての選択肢がテーブルの上にあるとのトランプ氏の考えを「一貫して支持している」と表明し「対話ではなく最大限の圧力」を強調した。一方で「誰も紛争を望んでいない」とも述べた。紛争を望んでいないなら、トランプ氏に外交、対話による平和的な解決を模索するよう進言すべきだ。

 トランプ氏は来日前に、日本の上空を通過した北朝鮮のミサイルに関し「なぜ打ち落とさなかったのか」と疑問を呈していた。会見で首相は「いつでも迎撃できる」と言葉を濁したが、実態は迎撃能力がないことは専門家からも指摘されている。揚げ句に米国製のミサイルや戦闘機などの購入を確約した形だ。国会の議論もないままであり問題だろう。トランプ氏のディールにまんまと乗せられたのではないか。

 トランプ氏にとって重要なテーマは貿易不均衡の問題である。日米財界人との会合で「米国は長年にわたって日本に対する巨額の貿易赤字に苦しんできた」とずばり切り込んだ。これに対し首相は会見で、麻生太郎副総理兼財務相とペンス副大統領による日米経済対話の「枠組みに任せる」と返すにとどめた。米国の復帰を切望する環太平洋連携協定(TPP)については名称にも触れなかった。

 拉致被害者家族らとの面会はどう評価するか。トランプ氏は「とても悲しい出来事。母国に戻れるよう尽力したい」と神妙な面持ちだった。面会後、家族らからは「早く行動を」「お祭り騒ぎに終わらせないで」といった声が出された。首相は重く受け止めなければならない。

 実現に向けた協力の強化で一致した「自由で開かれたインド太平洋」構想は、海洋進出を強める中国が念頭にある。トランプ氏はこれも中国との間で、ディールの材料にする可能性がある。日中関係に影響を及ぼさないか懸念が残る。

 トランプ政権のアジア政策は、引き続き歴訪する韓国、中国、ベトナムでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)などで、鮮明になってくるだろう。日本はより慎重に見極める必要がある。

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