【越山若水】歳時記では、もともと鳴かない動物が鳴くことになっている。春の季語では「亀鳴く」「田螺(たにし)鳴く」が知られる。秋になると「蚯蚓(みみず)鳴く」「地虫鳴く」が見える▼さらに蓑虫(みのむし)も秋に鳴くという。平安時代中期、清少納言は「枕草子」四十三段で「『ちちよ、ちちよ』とはかなげに鳴く、いみじうあはれなり」と書いている▼ミノムシには「鬼の子」の異称がある。みすぼらしい衣服を着せたまま、親は「待てよ」と言ったきり逃げ出した。子は心細くて「父さん、父さん」と鳴くそうだ▼ご存じのように、ミノムシは昆虫ミノガの幼虫。体から分泌した糸で枯れ葉や樹皮を袋状にし、その中で枝にぶら下がって越冬する。秋風に吹かれる様子はいかにも哀れで、文人俳人の興趣を誘った▼さて、きょうから11月がスタート。今月は「子供・若者育成支援強調月間」に定められ、若者の社会的自立の促進や児童虐待の防止、子供の貧困対策などを推進するという▼ただ児童虐待一つをとっても、現実は厳しい。警察庁の今年上半期の統計では、虐待の疑いがある子供が初めて3万人を超えた▼昨年度に児童相談所が対応した虐待も12万2千件、集計開始から26年連続で増加し、過去最多というから悲しい。助けを求めるミノムシの鳴き声を逃さぬよう、ここはじっと耳を澄ましたい。「蓑虫の父よと鳴きて母もなし 高浜虚子」

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