【越山若水】自分のために絵本を買った。ちょっと気恥ずかしい思いをした甲斐(かい)はあった。小さな子がかいたような色鮮やかな絵は、よく見ると技法が凝らされていて楽しい▼世界的なベストセラーになったエリック・カール作の「はらぺこあおむし」である。初版は1976年に出され、筆者が買ったのは絵が一新された改訂新版だ▼この絵本は、日本の出版社の力で世に出たらしい。理由は複雑な造本。つまり、大きさの違うページが5種類もあり、出てくる食べ物の絵に穴を開けた造りにある▼コストがかかりすぎる、というので米国の出版社には敬遠された。次に持ち込まれた偕成社が印刷製本に協力し日の目を見たという。作者の意をくんだ心意気が何だかうれしい▼教えてくれたのは「教養は児童書で学べ」(出口治明著、光文社新書)だった。この絵本には「宇宙がぜんぶ詰まっている」ともあった。それは当方には的確な水先案内だった▼本は必ずしも読まなくてもいいどころか「他人の頭に考えてもらうことだ」と、読書の弊害を説いた哲学者がいた。「書を捨てよ、町へ出よう」と書いた劇作家もいた▼わが意を得たりと鵜呑(うの)みにするのは慌て者かもしれない。「書を捨て」るには、身近に本がなくてはならない。9日まで読書週間である。親切な本のおかげで初めて買った絵本は座右にある。デスクの上が明るい。

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