【論説】原子力政策に一元的責任を有する国に重大事故の責任はあるのか、ないのか。

 東京電力福島第1原発事故の被災住民3824人が国と東電に空間放射線量の原状回復や慰謝料計約160億円などを求めた訴訟判決で、福島地裁は国と東電双方の責任を認め、約2900人に総額約5億円を支払うよう命じた。

 原告は事故当時と同じ場所にとどまった福島県の住民を中心に、宮城、茨城、栃木3県の住民も加わる。原告数が最も多い地元福島地裁での集団訴訟だ。金沢秀樹裁判長は、国、東電双方で津波を予見できたのに対策を怠ったと断じ「事故は回避可能だった」と明快に切り込んだ。

 問われたのは「過酷事故は起きない」という「安全神話」に基づく国の原子力政策の甘さである。原発リスクや住民安全を楽観視した国策を厳しく断罪したといえるだろう。

 約30件ある同種の訴訟で3件目の判決だ。3月の前橋地裁は国、東電の賠償責任を認め、9月の千葉地裁は東電だけ賠償を命じた。福島地裁は国の指針に基づき東電が支払っている慰謝料を上回る賠償を認めた。原状回復の訴えや「ふるさと喪失」への慰謝料は却下されたが、額の上積みに加え対象住民の範囲も拡大されたのは前進だ。賠償制度の在り方が問われよう。

 「原告たちの思いが報われる判決を」―。住民は平穏に生活する権利を侵害され、家族や地域の人間関係を壊されたなどと訴えた。金沢裁判長は同種裁判では初めて浪江町など避難指示区域内などを回り被害状況を検証。机上にとどまらない現場判断は、被災者に寄り添うものといえる。

 最大の争点は巨大津波の予見可能性だった。原告側は政府機関が2002年に発表した地震に対する「長期評価」などから「津波を予見できた」と指摘。「国が適切な対策を東電に取らせていれば事故は防げた」と主張した。一方、国側は「長期評価は確立した知見ではなかった」「東電に対策を命じる権限がなく、対策をしても事故を防げなかった」と反論していた。

 金沢裁判長は、長期評価を基に試算すると15・7メートルの津波は予見可能だったと指摘。国が東電に安全対策を命じていれば事故は防げたとして国の責任を厳格に判断、「国の規制権限の不行使は著しく合理性を欠いていた」と結論付けた。

 タービン建屋や重要機器室の水密化措置は実施できたはずで、東電にも津波対策を怠った過失があると踏み込んだのだ。

 ただ、安全性確保の責任は第一には事業者で、国の責任は監督する二次的なものとした点は疑問も残る。原発は国策民営で長年進められ、事故後も安倍政権は「世界一厳しい規制基準」と強調し再稼働に走る。国に強い規制権限があるならば、住民の「平穏生活権」を守れなかった根本的責任は国にあるはずだ。

 今なお福島県の5万人超が避難生活を強いられている現実を直視したまっとうな政治が、なぜできない。

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