【越山若水】二宮尊徳といえば、江戸後期の農政家である。柴(しば)を担いで本を読む少年・金次郎の銅像が有名だが、小田原藩の財政立て直しや領地の農村復興にも力を尽くした▼努力と倹約を重ねて名を上げ、経世済民を実践した尊徳の思想は「報徳主義」と呼ばれた。明治以降の教科書や唱歌に登場し、広く国民の知るところとなった▼尊徳の教訓として残る言葉がある。「道徳なき経済は罪であり、経済なき道徳は寝言である」。モラルの重要性を説く一方で、利益を考えない経営にも苦言を呈す▼よくある「金もうけ主義」の批判に終わらない点に苦労人らしさがある。この思想はそのまま後世の人物が提唱した理念に相通じる。「日本資本主義の父」と呼ばれた明治の実業家、渋沢栄一である▼生涯に500近い企業の設立に関与した渋沢は、自らの信念を「論語と算盤(そろばん)」に著した。「道徳経済合一説」を説き、倫理の確立と利益の追求を両立させる経営を目指した▼せっかくの先人の教えも馬の耳に念仏か。神戸製鋼所がアルミや銅製品の強度データを書き換えていた事実が発覚。不正は組織ぐるみの可能性が高い▼納入先は自動車や航空機メーカーなど200社にも及ぶという。その中の一つ、日産自動車でも完成車の無資格検査が常態化していた。人心を裏切ってまで利潤を求める「道徳なき経済」は言い訳無用の罪である。
 

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