昨年のベネチア映画祭で金獅子賞を受賞したフィリピン映画だ。上映時間は3時間48分。それでもラヴ・ディアス監督にとっては短い部類だという。冤罪で30年間刑務所にいた女性が釈放され、自分を陥れたかつての恋人に復讐しようとする話だ。

 この手のワンシーン=ワンカットを基調とした長尺の映画に共通するのは、登場人物たちをその世界ごと静観するような視点である。近年では「スロー・シネマ」と呼ぶらしい。要するに、編集=時空間の省略によって効率的に物語るハリウッド的な作品とは真逆の映画ということになる。

 だが、編集が少ない分、逆に編集が際立つ。次のシーンに移行する際の省略などは、むしろ強調されることになる。本作でも、例えば出所シーンが“ない”ことに、意味を読み取ろうとする観客もいることだろう。

 その意味で、ハッとするほど美しい昼間の農作業の風景で始まりながら、本作は夜の映画である。「人生の夜」という比喩的な意味ではなく、純粋に、多くの昼間のシーンが省略されているから。それが1940〜50年代のフィルムノワール的な肌触りをもたらすが故に、ハリウッド製サスペンス映画との語り口の違いが浮き彫りになるものの、ここには確かに古き良きハリウッドのモノクロ撮影の伝統が受け継がれている。どこかシュールなラストカットでディアスが見せたかったのは、主人公の影の“黒さ”だと思う。

 伝統に裏打ちされた独創性。この機会に彼の特集上映を組んでくれないだろうか。★★★★★(外山真也)

監督・脚本・撮影・編集:ラヴ・ディアス

出演:チャロ・サントス・コンシオ、ジョン・ロイド・クルズ

10月14日(土)から全国順次公開

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