【越山若水】うまい柿を見分けるにはヘタを開けてみて隠れていた部分と外気にあたっていたところを比べてみるといい。色の差が大きければ霜にあった証拠なので、味が良い▼というようなことを、秋山徳蔵が自著の「味」(中公文庫)に書いている。福井県民ならずともよくご存じの「天皇の料理番」。果物を見る目ももちろん一流▼文章だって並みではないので読むとつばが湧く。「皮を剥(む)くと、ほんのりと淡黄がかった果肉が、いかにもしっとりとして、心を吸い寄せるよう…」。こんな調子▼西洋ナシの「コミス」のことだ。秋山は「あれこそ果物の王」だという。当方が知る洋ナシといえばラ・フランスだけ。ネットで調べて食欲を刺激された。「幻の…」とあった▼逸品の話題を続けよう。今度は大分県津久見市の「小蜜柑(こみかん)」。こちらは「天下無双」のうまさだが、木は1本しかないという。しかも、樹齢が800年以上。長寿も天下無双だ▼「一口に入るほどの大きさ」で「癖のない、完全な甘さ」というのが秋山の評価である。興味を持った人にお知らせすれば、この木はいまも健在▼きょうは二十四節気の「寒露」である。草木に降りるものが、露から霜にかわっていく。そんな時季に秋山の本は、またとない逸品だ。目を輝かせて書いた、といった調子にどんどんつられる。おなかがすいて、心が満たされていく。

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