【論説】なぜ今なのか、何のためなのか―。多くの国民が疑問を抱く中、衆院が解散された。10月10日公示、22日投開票の総選挙に向け、事実上選挙戦がスタートした。安倍晋三首相は25日の解散表明で少子高齢化、北朝鮮情勢の二つについて「国民の信を問いたい」と強調した。

 2年後の消費増税による増収分の一部を教育無償化や子育て支援に振り向けることは、国会の話し合いで合意可能だ。ましてや緊迫の度を増す北朝鮮問題で政治空白をつくることに国民の不安は募る。全国世論調査でもこの時期の解散には64%が反対している。

 首相が「国難突破解散」を声高に叫ぶほどに、「自己保身」「身勝手」解散の様相が色濃く映る。野党の準備が整わぬうちにとの思惑は明らかだが、ここに来て民進党が小池百合子都知事が代表を務める「希望の党」への合流を決めた。「政権選択選挙」を前面に打倒安倍政権を目指す。「安倍1強」にとっては最大の脅威になるだろう。

 ■憲法改正は封印?■

 解せないのは、解散表明の記者会見で首相が憲法改正、特に9条の加憲を取り上げなかったことだ。政権維持の最大の悲願が改憲にあることは明らかなのに一切触れなかった。

 ただ、会見後に出演したテレビのインタビューでは、自民党が公約に挙げることを検討しているとした。5月3日に有志の会合で9条改憲を表明し、支持率の急落を受けた8月の内閣改造で「スケジュールありきではない」と軌道修正。党に任せた以上、自ら語ることを封印したのではないか。

 しかし、党公約に掲げるならば、説明すべきなのは当然だ。選挙で与党が3分の2の勢力を得るか、与党以外との連携で実現が見通せたなら、再び大手を振って改憲論を解禁するのは必至だろう。首相が説明を避けるならば、「争点隠し」以外のなにものでもない。

 ■消費増税先送り?■

 テレビインタビューで首相は消費増税について「リーマン・ショック級の大きな影響、経済的な緊縮状況が起これば、(延期を)判断しなければいけない」と先送りもにおわせた。そんな重要な発言をなぜ、記者会見でしなかったのか、首をかしげたくなる。

 首相は16年6月に2度目の消費増税先送りを表明した際、「リーマン・ショック時に匹敵するレベル」と称して「新たな判断」で先送りすると説明した。

 前回14年の総選挙で「再び延期することはないと断言する」と言い切ったのをいとも簡単に撤回した。あまりに軽い振る舞いとの批判を浴びた。この時は参院選を間近に控え、会見では「社会保障は充実させる」「国の借金も返す」などと主張。今回の解散表明にもどこか似ていないか。小池氏は「消費増税凍結」を掲げており、対立軸をそらす思惑さえ透ける。

 ■看板掛け替え次々■

 「新しい判断」で浮かぶのは、安倍政権がこれまで「女性活躍社会」「1億総活躍プラン」、最近では「人づくり革命」「全世代型社会保障」「生産性革命」などと掲げてきた仰々しい看板だ。次々と掛け替える手法には、使い捨て感も否めない。

 この軽さは「解散権」の行使にも共通する。「党利党略」は見え見えであり、前回に続き2度目とあっては解散そのものが争点にもなろう。さらには森友・加計学園問題では「閉会中審査に出席するなど丁寧に説明する努力を重ねてきた」と強弁。「謙虚に、丁寧に」「深い反省」といったこれまでの低姿勢は何だったのかと言いたくなる。

 「衣の下に鎧(よろい)」の衣のごとく肌触りのいい言葉が並ぶ一方で、その裏には改憲など自らの主張に沿う政策実現にむけた鎧という強権体質がのぞく。総選挙ではこの「安倍1強」体質の是非が問われる。

 こうした安倍政治に対峙(たいじ)する野党第1党は希望の党になるだろう。ただ政策的な違いは大きくなく、希望の党が自民党の補完勢力となる懸念も拭えない。小池氏の言動を見極める必要がある。
 

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