【論説】「どうして、いつまでも拉致問題は置き去りになるのか」。横田めぐみさん=失踪当時(13)の母早紀江さんはビデオメッセージで訴えた。これは国民共通の思いである。北朝鮮による日本人拉致被害者らの「年内救出」を求める国民大集会が先日、都内で開かれ、福井はじめ全国から約千人が集まった。

 10年前まで拉致被害者の家族会代表を務め、毎回のように出席してきた横田夫妻は初めてそろって欠席だった。父滋さん84歳、早紀江さん81歳。高齢による体調不安が理由という。

 ■自分だけ…切ない■

 当時の小泉純一郎首相が北朝鮮を訪問し日朝平壌宣言に署名してから今月で15年。さらに重い現実は、めぐみさん拉致から40年、家族会結成からも既に20年の歳月が流れたことだ。

 同じ拉致被害者で2002年に帰国を果たした曽我ひとみさんは地元佐渡市で会見した際、こう話した。「私たち5人以来、誰も帰国していないことが切ない。自分だけ帰国して…」。政府は、ひとみさんを追い込んではならない。

 拉致被害者は政府認定だけでも17人、特定失踪者は少なくとも470人いるとされる。組織的で深刻な人権侵害である。

 国連総会でトランプ米大統領がめぐみさんの例を挙げて人権問題に触れ、国際社会全体が直面する危機だと強調した。核・ミサイルで挑発を続ける北朝鮮を「ならず者国家」と非難する異次元のアナウンスとともに国際社会に響いたことだろう。

 これも、国連総会を前に拉致被害者家族らが超党派拉致議連などと訪米し、米政府や議会に働き掛けたからこそだ。早紀江さんも「ありがたい」と喜んだ。安倍晋三首相も演説で提起したが形式的で具体性を欠いた。衆院選を視野に、「拉致問題を政治利用しているのか」と疑問視する声さえ出ている。

 ■言葉だけの政治家■

 肝心なのは言葉ではない。いかに拉致被害者の早期帰国を実現させるかだ。首相は「最重要課題」「必ず取り戻す」と繰り返すが膠着(こうちゃく)状態を打開できないでいる。本気度が問われよう。

 元拉致問題担当相で、自民党拉致問題対策本部長の山谷えり子氏は「圧力をかけると、必ず譲歩する」として解決のドアを開くのは「今だ」と強調する。

 今や首相は「対話と圧力」から制裁による圧力一辺倒に傾斜している。演説では過去の対話を「無に帰した」と述べ、米紙への寄稿でも「無駄骨」と言い切った。こんな痛罵が北朝鮮の「譲歩」につながるのか。展望が開けるとは思えない。

 政府が最重要課題に掲げるなら、なぜ拉致問題担当が兼務職として常態化しているのか。被害者家族の「何もできなかった40年は国家の恥」「安倍首相にはもう期待できない」との不信の声が強さを増している。

 ■もう、時間がない■

 未帰国の拉致被害者12人に関し、北朝鮮は「8人死亡、4人未入国」と主張する。一方的断定を撤回させ「全員帰国」を実現させるのが政府目標である。

 北朝鮮は14年の日朝ストックホルム合意に基づき安否再調査を約束したが、昨年2月、核実験などに伴う日本政府の独自制裁に反発、組織を解体した。ただ、拉致問題は「解決済み」と主張するが、水面下の接触が途絶えているわけではない。

 「もはや一刻の猶予も許されない」(菅義偉官房長官)のであれば、包括的な手だても含め金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と直接決着を図る道を探るべきでないか。究極の対話外交が必要だ。

 小浜市の地村保志、富貴恵さん夫妻が帰国した15年前と同じ10月、救う会福井が県集会を開く。自らが訴えるため、前に立つ覚悟を見せる地村さんは「進展なき風化」とも戦い始めた。国民の関心が薄れ行く中で、最悪の人道問題を置き去りにしてはならない。

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