【論説】前のめりに「合格」判断を示すかと思いきや、一転先送りだ。原子力規制委員会が迷走している。

 東京電力柏崎刈羽原発6、7号機(新潟県)の再稼働に向けた審査で、予定していた事実上の合格証に当たる審査書案の取りまとめを延期した。10月には新潟などで衆院3補欠選挙が行われる。政治的にその日程も考慮したのであれば、規制委の主体性と独立性が一層厳しく問われよう。

 東電は福島第1原発事故を起こした当事者。いまだ溶けた核燃料も回収できないのに、福島と同じ沸騰水型原発を再稼働させるだけの適格性があるのか。規制委にその判断能力が問われるのは当然のことだ。

 6日の定例会合では「合格」を与える方針を固めたはずだが、1週間で方針転換。東電の適格性の議論が不足し、拙速との批判が高まったためで、さらに確認を進めるのだという。

 慎重姿勢を否定するものではないが、そもそも18日の退任を前にした田中俊一委員長が突然「滑り込み合格」に動いたこと自体が問題だった。規制委は事故を起こした事業者の適格性の領域に踏み込んだものの、原子炉等規制法にも規定がない分野であり、議論は深掘りすることなく短時間で終わってしまった。

 福島原発事故の反省から設置された規制委は、東電の地震・津波対策や設備設計での高い技術力を評価していた。だが、肝心の廃炉対策では「主体的に取り組む覚悟と実績を示せない事業者に原発を運転する資格はない」と批判してきた。それは経済産業省の顔色をうかがう主体性のなさ、安全性より経済性を優先させるような経営姿勢が問われたからであろう。

 汚染水や廃棄物対策でも田中氏が東電に明確な処分策を示すよう迫ったが無回答だった。にもかかわらずその後のやりとりで「東電の責任を明確にした意義は大きい」と評価に転じ「事故の責任と技術力は別問題」との判断さえ示した。

 退任を前に困難な問題に早く道筋を付けたかったのだろうが、「安全意識に変化がない」などと強く批判してきたのは、安全確保の「最後の砦(とりで)」としてのパフォーマンスだったのではと勘ぐりたくもなる。

 6日の会合では「決意表明だけで適格性を判断するのは不安。将来にわたって実効性を持たせる仕掛けが必要だ」との意見も出ており、もっと慎重に扱うべきではなかったか。

 昨日の会合では東電が示した安全確保に関する「覚悟と決意」を保安規定に明記させることを決めた。適格性は経産相に意見照会し最終判断するというが、全ては形だけだ。安倍政権の下で原発推進を加速させる同省に厳格な判断が期待できるはずもない。

 規制委が発足して19日で5年だ。福島県出身である田中委員長の言動が象徴する迷走ぶりは、組織の未熟さを露呈、国民の信頼を失いかねない。柏崎刈羽2基の地元同意は数年先とされる中で、最後の説明責任を果たすべきである。

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