【越山若水】幕末に海軍の教官として来日したオランダ人が、回想録に書いているそうだ。日本にはただ一つ不安なところがあるといい、長崎の大町人との問答を挙げている▼長崎港に防備が欠けているのを指摘すると「それは大公儀のなさることで、私たち町人とは関係がない」と返ってきた。お上(かみ)まかせ。そこが日本の弱点だ、と▼「司馬遼太郎歴史歓談」(中央公論新社)にある話で、日本史研究の朝尾直弘さんは「ここがやはり、江戸時代の問題点ですね、いまにいたるまでの」と言っている▼治める層と民衆の間が遠いと、政治は独善に走りがちになる。国民は不信を募らせ、自分の利益だけを追うようになる。そんな事例が、言われてみればますます増えた感が強い▼その辺りにもメスを入れるのかと思ったが、様子が違う。安倍晋三政権の新しい看板政策「人づくり革命」である。きのうの有識者らの初会合を見るかぎり、経済専門のようだ▼焦点の教育無償化は、見た目は福祉政策。けれど貧富による教育格差をなくすことで人材を育て、経済成長につなげるのが狙いだというから、経済政策にほかならない▼違和感がぬぐえない。何といってもネーミングの「人づくり」に抵抗がある。この場合の「人」は要するに、国や企業のために稼ぐ人材のことだろう。モノじゃあるまいし…と思う。つくられる側に無神経だろう。

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