【越山若水】「徒然草」は兼好法師の手による鎌倉末期の随筆集だ。序段でいきなり「手持ちぶたさに任せてとりとめも無く書くのは、実にくだらない」と自作を卑下している▼しかし全243段のテーマは人生観や仏道から友情、恋愛、季節の情緒まで幅広い。筆さばきも時に辛らつ、時に軽妙で、現代人にも通じる奥深い内容である▼第130段「物に争はず」は勝負事の心得を説く。「人に本意(ほい)なく思はせてわが心を慰まん事、徳に背けり」。相手を落胆させて喜ぶのは道徳にもとる行為だという▼単に楽しみで始めた遊び事でも、長く恨みが残る例は多い。これは争いを好む弊害である―と「自分第一主義」の思考にダメ出しする。続く「貧しき者」の段では、分相応の行動が大事だと忠告する▼「おのれが分を知りて、及ばざる時は速やかにやむを智(ち)といふべし」。限界を感じたら手を引くのが賢明。分際をわきまえないと不正を働き、体を壊す羽目になると戒める▼兼好法師の文言をぜひ聞かせたい人物がいる。国連安保理決議を無視し、核実験とミサイル発射を強行する北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長である▼「米国への贈り物だ」と挑発を続ける北に、米は石油の輸出禁止など異次元の圧力を安保理に提案した。制裁が決まれば市民生活も支障を来す。あす9日は北の建国記念日。「物に争わず」こそ賢い選択だが…。

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