【論説】福島第1原発で炉心溶融(メルトダウン)という未曽有の過酷事故を引き起こし、大量の放射性物質が広範囲に拡散、周辺住民は長期避難を余儀なくされた。廃炉作業は困難を極め、炉心から溶け出た核燃料も取り出せず、原因究明も不十分なままだ。その事故を防げなかった東京電力に原発を動かす資格があるのか。

 原子力規制委員会は東電が再稼働を目指す柏崎刈羽原発6、7号機(新潟県)について、事実上の合格証に当たる審査書案を13日に了承する方針だ。

 2基は福島と同じ沸騰水型原子炉。事故から6年半を経て国の原発政策は新たな段階に入り、一段と推進姿勢が鮮明になる。なし崩しの対応に、国民の反発が一層高まるだろう。

 規制委の田中俊一委員長はこれまで東電の経営体質を厳しく批判。7月には川村隆会長、小早川智明社長の新経営陣を呼びつけ「第1原発の廃炉を主体的に取り組めない事業者に再稼働の資格はない」と断じた。

 安全確保より再稼働優先で経営改善に走る東電体質は、柏崎刈羽原発で同様に露呈。免震重要棟の耐震不足を示す試算を約3年前に把握しながら報告せず、防潮堤の不備を指摘されても認めようとしなかった無責任さも厳しく問われた。

 規制委はこんな東電を「安全意識に変化がない」と突き放してきた。原子力事業者としての適格性が疑われたのである。

 その後、東電の姿勢にどんな改善があったというのか。規制委の姿勢が一変。6日の会合で「事故の経験はプラスになる」と評価に転じた。田中氏の任期は18日までだ。退任を控え「再稼働ありき」でタイミングを計っていたと判断されても仕方がない。

 会合では田中氏や次期委員長に就任する更田豊志委員長代理が「事故は他の電力会社でも防げなかった」「事故の責任と(安全確保の)技術力は別問題」などと述べた。本当に防げなかった想定外なのか。

 国会の事故調査委員会は「事故は自然災害ではなく明らかに人災」と結論付け安全対策の不備や政府・規制当局の危機管理体制も批判。「規制当局は電気事業者の『虜(とりこ)』となり、安全対策の意図的な先送り」が過酷事故を招いたとまで糾弾したはずだ。

 第1原発では汚染水が増え続け、海洋汚染問題も引きずっている。田中氏は東電に明確な処分策を示すよう迫ったが、東電は「ゼロ回答」だった。それでも規制委は「東電の責任を将来まで明確にした意義は大きい」と評価した。

 東電が責任を明確にするのは当たり前で、むしろ責任感の希薄な中身で満足する規制委の対応に疑問が湧く。事故時、社長がメルトダウンを公表しないよう社内に指示していた問題も発覚している。このような東電を「信任」する規制委は安全規制の要として役割を果たせるのか。それこそ国民の信任を得られない。

 地元新潟県は再稼働に慎重な姿勢を崩さない。それも当然であろう。

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