【越山若水】日本には「鶴女房」や「うぐいすの里」など、鳥たちが情け深い行為に恩返しをする民話が数多く伝わる。その際はいつも「見てはいけない」がキーワードになる▼一番有名なのが木下順二作の戯曲「夕鶴」だろう。鶴を助けた男の家に女が訪れる。妻になった女は見事な布を織るが「部屋は絶対のぞかないで」と懇願する▼だが男は好奇心に駆られ約束を破ってしまう。のぞき見ると、一羽の鶴が自分の羽を抜いて機を織っていた。正体が知れた女は空へと帰り、男の幸せは消え去った▼一連の「見るなの禁忌」は古くイザナギ、イザナミの神話にも登場。禁を犯したイザナギはイザナミの仕返しを受ける。そこには見る行為の侵略性を明確にし、その作法をより厳格化する狙いがある▼主に「日本人の禁忌」(新谷尚紀監修、青春出版社)を参考にした。ところで今の時代でも、できるなら「見るなの禁忌」が通用すればいい―と思っている人もいるだろう▼政務活動費を不正受給する地方議員が後を絶たない。直近では市政報告のチラシを架空発注し、720万円を受け取ったとされる神戸市議が辞任した▼2014年の兵庫県の号泣県議や昨年の富山市議の大量不正など、金銭感覚の欠如にあきれ返るばかり。発覚の端緒はマスコミや市民団体の情報公開制度である。選ばれた身に「見るなの禁忌」は適用されない。

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