小林進さんが服用した薬と診断書。「過労自殺の背景には必ずパワハラがあるはず」と訴えた=6月、福井市

 2人きりのとき、先輩社員が切り出した。「何で(仕事が)できんの? もう(会社に)来るなや」。口調は本気だった。配置転換で職場を変わったばかりの小林進さん(福井県内在住、仮名)は「すいません」と謝った。言葉のパワハラは続き、通勤の車から会社の建物が見えると、吐き気がするようになった。

 専門職として入社し、上司に異動を告げられた。これまでとは無関係の部署で「職場に残りたい」と訴えたが、上司は「オレの立場はどうなる?」と言った。

 業務は一変。勤務時間は長引くようになった。ミスもあり、緊張で長時間いすに座っていることができなくなった。屋上から飛び降りる夢を何度も見るようになった。

 しばらくで休職した。医師からは「適応障害」と診断された。休職が長引くほど、会社は冷たくなった。結局小林さんは退職に追い込まれた。

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 2016年9月、広告大手電通の新入社員だった高橋まつりさんの自殺は、過労が要因と認定された。長時間労働抑制への機運が高まり、政府は今年3月、働き方改革の実行計画をまとめた。

 福井労働局の16年の監督指導結果によると、違反事項別では「労働時間」が270事業場(違反率26・9%)で最多。率は最近5年間で最も高かった。

 ただ「極端な例は別として、残業は労使双方にメリットがある」との声は多い。企業にとっては、人を増やさず仕事の繁閑に対応できるし、労働者にとっては残業代が加算される。県内のある社会保険労務士は「労使は長時間労働の是正を望んでいるだろうか」と疑問を投げ掛ける。

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 5月の福井県内の有効求人倍率は2・09倍で全国トップだった。県内の長時間労働の背景には、慢性的な人手不足がある。一方、ここ数年、県内で最も多い労働相談は「いじめや嫌がらせ」だ。

 福井市の海道宏実弁護士(56)は「長時間労働の上に労働密度が高まり、社員のストレスが増え、パワハラにつながっている可能性がある」と関連性を指摘する。ある企業幹部は「人口減で市場が縮小し売り上げが減れば、まず人件費を削る。1人の負担が増し、今は管理職も現場に出る。職場をマネジメントする余裕がない」と話す。

 仕事が特定の人に集中することを危ぐするのは、県経営者協会の峠岡伸行専務理事(56)。「日本は、仕事に人を付けるのではなく、人に仕事をつける。だからワークシェアもやりにくい。1人が仕事を抱え込む傾向がある」と指摘。「働き方改革は、仕事の指示の出し方も含めた業務の見直しのきっかけにすべきだ」と訴える。

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 相次ぐ過労死などで注目が集まっている「働き方改革」は、企業の生き残りの鍵ともいえる。福井県内企業の現状や課題を探る。

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