【越山若水】声も出せない重い障害のある人の中にも、豊かな言葉の海が広がっている―。国学院大の柴田保之教授は2004年、自身の価値観を根底から覆される経験をした▼重度障害の9歳の女の子だった。パソコンに触れてもらうと、やっと少し動く手で「か」「あ」「さ」と打ち出した。1分ほどの間があって次の文字は「ん」▼文章がつづられた。「かあさんがすきめいわくばかり」。女の子は「幼いなりに自分の境遇を理解し、人生で初めての言葉を最も身近で愛情を注いでくれている母親へ綴(つづ)ったのでした」▼意識がなさそうに見える“植物状態”の人ともパソコンで会話ができた。重度障害の世界に言葉はない、との常識が崩れた(「プレジデントオンライン」)▼19人もの命が奪われ、26人が重軽傷を負った相模原市の「津久井やまゆり園」の事件は、きのうで発生から1年。一報に触れたときの衝撃が、痛みとともに生々しくよみがえる▼逮捕された元職員は「障害者はいなくなればいい」と言った。被告となったいまもその考えを変えていない。身勝手な偏見だと怒りが込み上げる▼残虐な事件に遭った人たちは「かわいそうな存在」だったのか。柴田教授は言う。「彼らには一人ひとり、豊かな言葉の世界があって、人生についても深い思いを抱えて生きて」いた。そう教わって、偏見の恐ろしさを改めて感じる。

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