【論説】政治家安倍晋三がなぜ首相になり、何をしたいのか。答えは明快だ。日本国憲法をわが手で「自主憲法」として作り替えたいからである―と感じる。

 支持率が急落し、安倍首相は悲願達成へ「最後のチャンス」と焦っているのか。独断で2020年に憲法改正の施行を目指す考えを明言した。しかし、何ら環境は整っておらず、多くの国民は安倍首相による改憲に「ノー」を突き付けている。

 ■「壊憲」が狙いか■

 2006年に第1次安倍内閣が発足して以来、一貫して主唱してきたのは「戦後レジーム(体制)からの脱却」だ。自身の「基本政策」の中で、憲法が「GHQ(連合国軍総司令部)による押し付け草案」という認識を示し「憲法は国の基本法、日本人自らの手で書き上げていくことこそが、新しい時代を切り拓(ひら)いていく」と言い切る。

 果たして現行憲法が時代遅れであり、戦勝国の押し付けだろうか。草案は帝国議会の審議過程で修正され、正式な手続きで成立した。首相の祖父、岸信介元首相は自主憲法論者であり、その「遺志」実現が宿願かもしれないが、あえて言うならそれは「憲法の私物化」である。

 そもそも、憲法96条では国会の憲法改正発議権を保障し論議する権限が付与されているが、99条では憲法尊重擁護義務を課し、とりわけ内閣には改正の発議権も発案権もない。

 首相はあくまで「自民党総裁として」と発言している。「首相」との巧妙な使い分けはご都合主義が過ぎよう。立憲民主主義の下、主権者たる国民は「最後の憲法の番人」として権力の動きを冷静に判断したい。

 ■異論封じてまでも■

 首相の改憲案は、戦争放棄を定めた9条1項と戦力不保持の2項を残した上、自衛隊の意義と役割を書き込む(根拠規定)というもの。9条という憲法の「本丸」に切り込んだのだ。

 最短のシナリオでは、秋の臨時国会中に自民党改憲案を衆参両院の憲法審査会に提出―来年1月からの通常国会で衆参3分の2以上の賛成を得て改憲案発議―国民投票で18年中に改憲を実現させる日程が浮かぶ。

 ただ今後の動きは不透明だ。自民党の憲法改正推進本部は9条に加え、教育無償化や大災害時の緊急事態条項、参院選の「合区」解消の4項目を中心に議論する予定だが、党内には内容を巡り異論も多い。

 戦力不保持の9条2項を残した場合、「戦力」である自衛隊との整合性が取れるのか。12年の党改憲草案は9条の抜本改正を掲げており相いれない。そもそも一方的に期限を切ること自体に首相の傲慢(ごうまん)さが露呈する。

 ■正論に耳を傾けよ■

 党推進本部は現行の9条とは別立てで「9条の2」を新設し自衛隊について「わが国を防衛するための必要最小限度の実力組織」と規定する腹案を考えているらしい。これは「国防軍」への道を開くものである。

 首相は改憲を「合憲か違憲かの議論の余地を一切なくすためだ」と強調するが、政府は必要最小限度の自衛措置を「合憲」と判断してきたはずだ。民進党なども現状を容認している。

 「ポスト安倍」を意識する石破茂前地方創生相は「勢いで憲法を改正していいはずは全くない」と強調し、岸田文雄外相も拙速をけん制。公明党の山口那津男代表は「政権が取り組む課題ではない」と断言する。それが正論ではないだろうか。

 憲法は国の最高法規である。改憲手続きに衆参両院の3分の2以上、国民投票で過半数の賛成が必要−という高いハードルを設けた重みを考えたい。

 「安倍1強」の強引な政権運営で支持率は30%台に低落。共同通信社調査で過半が首相を信頼できず、首相の下での改憲に54・8%が反対している。70年守り抜いた平和憲法、何が不都合なんですか。

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