名門進学校で実施されている、一見すると大学受験勉強にはまったく関係なさそうな授業を実況中継。今回は関西の名門「東大寺学園」の人気授業を追う。

授業の約半分は深イイ~雑談

奈良市山陵町に位置する東大寺学園(写真は筆者撮影)

 奈良の大仏で有名な東大寺を母体とする東大寺学園。中高一貫の男子私立進学校だ。1986年までは東大寺の境内に校舎があったが、今は東大寺から車で約20分の、緑に囲まれた高台にある。いわゆる仏教校であるが、堅苦しさはまったくない。制服も、頭髪に関する制限もない。自由でのどかな校風が有名だ。

 一方で、進学実績は全国屈指。1学年の生徒数は220人に満たないのに、2017年度の東大・京大・国公立大合格者数を合わせると138名になる。関西では灘と並ぶ進学校であり、広域から生徒が通う。

 段ボール箱を抱え、なぜか背中に2本の長い木の棒を差しているベテラン教員が出迎えてくれた。自身も東大寺学園の出身の、国語科の松本浩典教諭だ。松本教諭の「読書」の授業を見学した。

 

 「先生が中学生の頃はテレビゲームなんてあらへんから、仲の良い友達とよく会社ごっこをして遊んでな。イタコクいうあだ名の友達を社長にして、伊田故九社という出版社をつくったんや。イタコクは何にもせんけどな、名前だけ貸してもろて」

 「ワハハ!」

 話の上手なおもろいおっちゃんが近所の子供たちに昔話を聞かせているかのように、松本教諭は話す。生徒たちはみるみる話に引き込まれ、教室全体の呼吸が合ってくる。

 「それからな、イタコクにはもう1つあだ名がありました。北京原人と呼ばれとったんよ。さらにそれがなまって途中から『ペテン』言われるようになったんや。失礼やな、これ」

 「ギャハハ!」

 「それでな、伊田故九社の出版物はペテン文庫って言うんよ」

 「ガハハハ!」

教室はもう漫才の会場のようだ

 ドッカンドッカン受ける。授業が始まったまだ5分程度だが、生徒たちは完全に松本教諭のペースに乗せられている。教室はもう漫才の会場のような雰囲気だ。

 「原稿用紙をな、2回半分に折ると、ちょうど文庫本の大きさになる。そこに先生みたいな『作家』が、小説を書く。それで編集長がすごい男やねん。原稿を渡すとな、『少々お待ちください』と言うて、3日後くらいにどうなって返ってくるかというと……、こういう本になってくるんや」

段ボール箱の中から、『空白』というタイトルの、完璧な文庫本を取り出した。

「えーーー!」

生徒たちはその完成度の高さに驚きの声を上げる。

「オレ知ってます! 『空白』」

「知ってるわけがない。だって作者は松本浩典やもん。世界に1冊しかないからな。このカバーの裏を見ると、阪神タイガースカレンダーや。中、原稿用紙でな、ここに製本用ののりを付けて製本して、表紙付けて、なんとな、ご丁寧にこんなひもまで付いて。本物みたいやろ。帯まで付いて登場したときには、先生も何分爆笑していたことか。奥付に昭和51年て書いてますわ。値段もちゃんと付いてんねんけど。たとえば『空白』やったら120円」

「買いま〜す!」

「絶対売らない!」

中学生時代の松本教諭とその仲間たちが、夢中になって小説を書き、製本し、回し読みしていた光景を生き生きと語る。

「何が言いたいか言うと、本を読むのも面白いけど、自分らで本を作るのも楽しいでということや。パソコンのゲームで怪物と戦うのもそら楽しいけど。しかもな、残しておくとええ記念になる。今使っている読書ノートも簡単に捨てないでほしいな。失敗したこともな、時間が経つといい思い出になるから」

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