【越山若水】重度の脳性まひを患い、22歳のいままでずっと寝たきり。声も出せない。堀江菜穂子さんの詩集「いきていてこそ」(サンマーク出版)には苦悩が磨いた言葉が並ぶ▼自分の体がほかの子と違うことに気付いて家族を恨み中学生の頃にはばらばらに心が砕けた。その心には「なん人ものわたしがうまれた」。混乱の毎日だった▼壊れる寸前の精神の危機を救ったのは、わずかに動く指で字を書くこと、なかでも詩をつづることだ。誰にも伝えようのなかった「叫び」が一挙にほとばしり出た▼作品は2千編に上るという。詩集には54編が収められた。その一つを紹介する。こう始まる。「かなしみでんしゃ はっしゃします/かなしみはみな ごじょうしゃください」▼「かなしみでんしゃ はっしゃします/かなしみでんしゃのいくさきは/とおいとおい きたのうみ」。電車に揺られるのは詩人の悲しみだけではなく、全ての人の悲嘆だろう▼「ゆきがちらつくそのうみで/はしのうえからおろされた かなしみたちは/うみにとけ でんしゃはからで しゃこにもどる」。人々を癒やすように、詩は結ばれる▼「かなしみでんしゃ きょうもまんいん」と。九州では豪雨によって、多くの死者・行方不明者が出ている。大切な人を失った遺族たち、不安のなかにうち沈む被災者のための「かなしみでんしゃ」よ、走れ。

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