【越山若水】テレビから聞こえてきたのは酪農家の声である。「日本人は本場や本家というのが好きだから、脅威です」。図星を指された気がして、思わず苦笑いしてしまった▼日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)が大枠合意に達した。協定が発効すれば、欧州産のチーズやワイン、豚肉などが安く手に入りそうだという▼いずれももう、日本人の食生活にはおなじみ。国内産も随分増え欧州産をしのぐ製品もある。とはいえ、関税分の価格差がなくなれば本場が選ばれる可能性は高い▼その本場中の本場フランスでは、めっきりワインを飲まなくなったらしい。特に健康的な生活を望む若年層の場合、週末以外は夕食もワインでなく水で済ませるという人が多い▼世界の食文化に詳しい玉村豊男さんが「食卓は学校である」(集英社新書)に書いている。フランス料理も変化し、頼まないのに前菜の小皿が数多く出されるようになったとも▼これは日本の小料理屋方式。かと思えば日本の若者は「いっしょ食い」ができなくなった。ご飯をかみつつ、おかずを口に入れる。欧米人はまずできない食べ方である▼「食卓は―」の発行は7年前。この間、日欧は互いにもっと接近した。その足取りをEPAは一層加速させ、やがて互いの文化も“金太郎飴”のように画一化するのかもしれない。生産者ならずとも複雑な心境だ。

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