【越山若水】七夕伝説は奈良時代に中国から伝わった。これに日本古来、機を織り神を待つ女性「棚機(たなばた)つ女(め)」信仰が結び付き宮廷や民間に広まった。万葉集には130首以上の歌が収録されている▼「天の河楫(かじ)の音聞(ときこ)ゆ彦(ひこ)星と機(たなばた)つ女(め)と今夕逢(こよいあ)ふらしも」。天の川に舵(かじ)の音が聞こえる。彦星と織り姫が今夜会うらしい…。伝承に託し自らの恋心を表した▼1年に1度だけ会うことが許される「星合(ほしあい)」の言い伝えは何ともロマンチックである。裁縫や手習いが上達する祈りも、短冊に書いた願い事も全てかなえてくれそうだ▼さらに年に1回のデートでは、あまりにかわいそうとつい同情したくなる。ところが「広辞苑を3倍楽しむ」(岩波書店編集部)を開くと、思いも掛けぬ解釈が披露されている▼彦星と織り姫星、つまり牽牛星と織女星は天文学的には太陽と同じ恒星の仲間。質量からみてどちらも1億年は生きる。1億年の寿命の星にとって1年はどの程度の長さか▼100歳まで生きる人間に例えると、わずか30秒でしかない。要するに二人は30秒に1度デートしている計算になり、常に一緒にいるのと変わらない▼それはさておき、太陽暦だと七夕は梅雨のさなか。天の川のきらめきもなかなか見られない。「うち曇る空のいづこに星の恋 杉田久女」。心配した雲行きも今年は梅雨の晴れ間。「星合」のロマンを見届けたい。

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