大吟醸が持つ味の特徴として、淡麗、透明感、滑らかな触感、柑橘系の香り、果実系の香り、等々が定義とされる。私は大吟醸の楽しみ方の一つとして、飲んで空になったグラスを手の平で暖め、鼻をグラスの中に入れ、微かな吟醸香を楽しむ。本来の吟醸香と違い、甘い果実香が爽やかに香り、一杯で二回楽しめるのである。

■爽やかに香る「福福」

 越前岬 大吟醸「福福」! 大吟醸の定義で有るはずの淡麗という言葉が当てはまらない! 酸味と旨味が余韻を残すほどに味が濃いのである。一般的には味の多い大吟醸は香りが無い物が多く、味吟醸と称している。しかし「福福」は甘い吟醸香が爽やかに香り、双方は互いに主張するのだがバランスが取れている。文章的に一言で「芳香旨味吟醸酒」と表現する。

 「福福」の味を探るべく、平成17年10月、永平寺町松岡「田邊酒造」田邊邦明(たなべくにあき)社長(58才)を訪ねた。入母屋造りの黒漆喰壁、紅柄塗りの格子戸、のれんをくぐると店内は総けやき造り、右手に一段上がって畳み敷きに格子囲いの机が置かれ、番頭さんがソロバンを持って座っていれば時代劇のワンシーンに出てくる帳場そのものである。建物は昭和8年に建られたものだが、74年経った今でも重厚に歴史観を感じさせる。

 旧松岡町には大正時代11軒の酒蔵が在った。大正11年(1922年)関東大震災の経済不況で7軒に減少し、太平洋戦争後には6軒になった。

 平成の現在は田邊酒造と黒龍酒造の2軒が存在する。その2蔵は縁戚関係で田邊社長の祖母が黒龍酒造、水野家から嫁いで来た。昭和19年の戦時下では配給米統制の影響で田邊酒造と黒龍酒造は合併して酒を造っていたこともあり、戦後昭和24年、再び分かれて酒を造ることになった。