紙芝居を実演する「越前らくひょうしぎの会」メンバー=9日、福井県越前市

 日本発祥の紙芝居が、いま改めて見直されている。福井県立こども歴史文化館(福井市)は、子どもたちに福井ゆかりの先人に親しんでもらう“切り札”として、2015年度からオリジナル作品の制作を始め、定期的に上演会を開催。昨年は、同県越前市に新たな実演グループが誕生するなど、ボランティアによる出前公演も活発だ。県内で広がりをみせる紙芝居の魅力とは。

 「紙芝居始めますよ~」。カン、カン、カン。甲高い拍子木の音につられて、子どもたちが続々と集まってきた。5月下旬、県立こども歴史文化館で開かれた上演会。奈良時代の僧、泰澄の伝記をもとに同館が制作した作品が演じられた。

 学芸員の宮川陽子さんが、泰澄が夢に現れた女神に導かれ白山の山頂を目指すシーンを、声の高低や速度を変えながら臨場感たっぷりに表現。地鳴りが響く場面で、紙を小刻みに上下に揺らして緊迫した雰囲気を演出すると、子どもたちは思わず息をのんだ。

 帰省中に訪れた角屋篤さん(33)=京都市=は、長男の航ちゃん(4)と楽しんだ。同じ会場で上映された泰澄の生涯を紹介するアニメと比較して「素早く紙が引き抜かれ、がらりと場面が変わるところが新鮮。息子は紙芝居の方が食い付きがよかった」と目を丸くした。

 同館は今春、小浜藩医、杉田玄白の没後200年にちなんだ2作目を制作。今後も作品を増やしていく予定だ。

  ●  ○  ●

 同館を拠点に紙芝居の実演を学んでいる「これきひょうしぎの会」は、元教師で紙芝居歴約20年の津田節江さん(70)=福井市=をリーダーに2011年に発足した。月2回の稽古では「『ママ~』って甘えるように。旦那や彼氏が隣にいると思って。照れくさがっちゃダメ」などと、津田さんの明るい声が飛ぶ。きめ細かく指導をするため会員数を限っているものの、受講希望者は後を絶たない。

 現在は27人が、同館での年2回の上演会をはじめ幼稚園や小学校に出向いている。田村計子さん(72)=福井市=は「物語の世界に引き込まれていく子どもの表情を見ていると演技にも力が入る」。同じ空間に集い、演じ手と観客がコミュニケーションできるライブ感が最大の魅力だ。

 津田さんは約900本を演じ分ける。年間150回に及ぶ公演の中で、普段、あまり笑わなかった子どもの表情がみるみる輝いていくのを何度も見てきたという。「美しい日本語で表現された物語。映像では味わえない生の言葉の抑揚やリズムの心地よさが、子どもの心を開いていくんです」と力を込める。

  ●  ○  ●

 越前市には昨年2月、同市立図書館前館長の土井晶子さん(61)の呼びかけで、「越前らくひょうしぎの会」が誕生。市内を中心に“紙芝居世代”の50~70代の35人が集い、週1回のペースで幼稚園や福祉施設を訪れている。「自分たちが楽しむことで、観客に面白さが伝わる」がモットーだ。

 土井さんは、紙芝居を原点とする絵本作家のかこさとしさんやいわさきちひろの出身地で、越前和紙の産地としても知られる同市を「紙芝居のまち」として全国にアピールしていきたいと意気込む。同会などの働きかけで、21年に「全国紙芝居まつり」を誘致する計画も進んでいる。

 仁愛大名誉教授で、同市かこさとしふるさと絵本館の谷出千代子館長(72)は「一方通行のコミュニケーションが多いデジタル全盛の時代にあって、人の輪が生まれ、演じ手や周囲の人の表情を見ながら多様な感覚が得られるのが紙芝居の良さ。子どもの好奇心や創造力を伸ばすことにもつながる」と話している。

関連記事