【越山若水】スペイン北部、バスク地方の都市ゲルニカの名前は知っていた。1937年にドイツ空軍の無差別爆撃の標的となり、ピカソが怒りを込めて「ゲルニカ」を描いた▼しかし爆撃にも屈せず生き延びた「ゲルニカの木」のことは知らなかった。何でもバスクの自由の象徴とされるカシの木で、初代は14世紀に植樹されたという▼実は、伊集院静さんが主に欧州を旅したときの紀行文「旅人よ どの街で死ぬか。男の美眺」(集英社)に登場する。その1本の木を見るためだけに現地を訪れた▼バスク議事堂の傍ら、ゲルニカの木はある。大きいわけでもなく、美しい花が咲くわけでもない。しかし現在4代目となる樹木には誇らしい歴史が刻まれ、州の紋章にも採用される特別な存在である▼かつて住民は、問題が起きるとのろしを上げホルンを鳴らし町の中心に集合。全員が木の下で話し合い向かうべき道を決定してきた。まさに民主主義の原型がそこにあった▼事情は異なるが、高知県大川村は有権者が直接村政の課題を審議する「村総会」の設置を検討している。人口が減少し議員のなり手がないのが理由だ▼交通手段が少なく、高齢者が一堂に集まれるのか―と懸念する声も聞こえる。合議が最良の選択を生むとは限らない。しかし民意が届かない間接民主制の現状には歯がゆさが募る。大川村の行方に注目している。

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