【論説】天皇陛下の退位特例法が成立した。皇室典範に定める終身在位に例外を認める法令だ。これにより明治以降、初めて退位が実現する。近代天皇制に新しい歴史を刻んだことになる。

 昨年8月、陛下が退位の意向をにじませたビデオメッセージから約10カ月。異例の法整備は有識者会議での検討、与野党議論を経て何とか結論を導き出した。来年12月の退位を想定し、陛下は「上皇」となる。

 しかし、憲法1条に定める「地位は、国民の総意に基づく」という基本理念が十分に生かされたのかは疑問だ。皇族減少が深刻な問題として現実化する中「皇位の安定継承」という重要課題が先送りされた。

 「日本国の象徴であり国民統合の象徴」として天皇はどうあるべきか。未来を展望した議論はまだ緒に就いたばかりだ。

 特例法は、皇位継承を天皇逝去の場合に限っている皇室典範4条の特例としている。退位の対象を1989年に即位した天皇陛下、と明示しており、基本は一代限りの限定的なものだ。

 世論調査でも7割近くが恒久制度化に賛同。政府はこうした国会、国民の声も反映する形で「先例になり得る」とした。「第2の皇室典範」と位置付けたようだが、玉虫色の決着に変わりはない。

 国会議論が「国民の総意」という理念に縛られるのは当然のことだ。ただ幅広い合意形成にとらわれるあまり議論の深化を見なかった。与野党は水面下の調整に走り、対立と譲歩、妥協を重ねた。審議は衆参両院でわずか2日である。

 衆参両委員会で「女性宮家」創設などの検討を政府に求める付帯決議を採択したが、検討開始時期も不明なままだ。

 天皇自身の意思表示を要件とする政治関与を禁じた憲法に抵触しないよう「国民世論の高まり」を受けた議論の形にするなど、政府が腐心した点は理解できる。主権者を代表する国会議員の多様な議論、意見反映は法整備の正当性を担保するものであるからだ。

 しかし、最初から「結論ありき」ではなかったか。強い保守基盤を背景にした安倍晋三首相の考え方が色濃く出ていた。皇室典範改正を嫌って陛下一代限定にこだわり、政府の有識者会議の人選などにも意向が反映。結論はスタートから特例法に傾いていた。

 野党内に「国会は政府の下請け機関ではない」との不満が渦巻き、衆参正副議長の働き掛けにより主体的な「国会見解」で合意に達したのは評価されよう。

 だが、最重要課題である皇族の安定継承へ向けた対策は置き去りにされた。

 安倍首相や保守勢力は女性宮家の創設を嫌い、皇籍を離脱した旧宮家の復帰や男系男子による皇位継承に執着する。「国民の象徴」は政治的私物ではない。継承問題はもう先送りできない状況に来ているのだ。

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