【越山若水】落語界に「独演会名人」という言い方があるらしい。自分を評価してくれる内輪のお客の前だけで上手に演じる落語家を冷やかす表現で、要するに業界用語である▼立川談志に弟子入りし、苦労の末に真打ち昇進した立川談慶さんが、近著「落語家直伝 うまい!授業のつくりかた」(誠文堂新光社)で紹介している言葉だ▼独演会のお客さんはいわば仲間内。落語をするには快適な環境である。どんな演目でもチヤホヤされ内輪受けする。新しいネタをつくる努力をしなくても困らない▼同じ人の前で同じことを滔々(とうとう)としゃべる構図が「独演会名人」で、談慶さんは落語家も教師も常態化のワナに陥る危険性が高いと警告する。閉ざされた空間ゆえに、独善的な状況になりやすいからだ▼その傾向は現代のネット社会にも通じる。賛同意見には「いいね」を連発するが、反対意見は容赦なく排除する。仲間だけで固めた世界を「自分王国」と名付けて憂慮する▼18日までの国会会期が迫る永田町。「共謀罪」法案を巡る攻防が激しい。廃案を目指す野党は内閣不信任案や法相問責決議案の提出を検討し対抗する▼だが与党は絶対優位の勢力図を背景に、またぞろ強引に幕引きを図る算段らしい。共同通信社の世論調査では77%が「説明は不十分」と答えている。それでも押し切るなら「独演会名人」と呼ばれても仕方ない。

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