【越山若水】乗るバスを間違えた米国人がいた。46年前の名古屋市での出来事である。座席を埋めていたのは、よりにもよって当時対立していた中国人。車内は一気に緊張した▼勇気をふるった男性がいた。最後部の席から米国人の元に歩み寄ると、錦の織物を差し出した。「我々は友人。プレゼントです」。相手の顔に笑みが広がった▼歴史的な米中交流の扉はこうして開いた。「ピンポン外交」と呼ばれるのは、これが世界卓球選手権のひとこまだから。中国を強く招請した日本の労も評価された▼この頃までを日本卓球の第一黄金期とすると、第二期の始まりかもしれない。ドイツで開かれた世界選手権で日本勢が活躍した。16年ぶり、48年ぶりという好成績の連発である▼石川佳純・吉村真晴組が混合ダブルスで優勝。男子ダブルスで銀と銅メダル。女子シングルスとダブルスはともに銅。男子シングルスでは13歳の張本智和選手が最年少の8強―▼卓球を国技とする中国にはまだ及ばないまでも幼少年期からの強化が実り始めている。今度の東京五輪をぜひ「王国」復活のひのき舞台にしたい▼ピンポン外交には余話がある。立役者になった伝説の世界王者、荘則棟さんは政治にほんろうされた末に日本女性と結ばれ幸せな老後を送った。愛を育んだのは100通近くの手紙の交換。もう一つの、心温まるピンポン外交だった。
 

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