在宅医療の利用者とかかわりながら「生きている人に寄り添いたい」と話す木下克俊さん=3月、福井市

 「生きている人間の悩み、苦しみに寄り添えるのはこの職だった」。僧侶の肩書を持つ木下克俊さん(44)は、在宅医療専門の「オレンジホームケアクリニック」(福井市)のスタッフだ。一般家庭に育ち、父の紹介で高校時代に県外の寺で研修を受け、19歳で得度した。医療機関や福祉施設などで心のケアをする臨床宗教師でもある。

 現在は左半身まひの男性(30)を担当。週に一度、市内の温泉施設に向かう。途中、飲食店に立ち寄り、男性が好きな高校野球の話に花を咲かせながら一緒に腹ごしらえ。施設では介助しながら風呂に入る。

 昨年、木下さんらスタッフ数人と男性は、1泊2日の温泉旅行に出掛けた。男性の母(57)は「クリニックにお世話になってから、息子は自分から話しかけてくるようになった。自分の存在を認めてくれる人たちに出会ったからだろう」と喜ぶ。

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 同クリニックの代表で医師の紅谷浩之さん(41)は「医療者は生物学的『生』にスポットを当てがち。一方、患者には医療だけでは取り除けない苦しみがある。木下さんは社会的『生』、つまり生きる意味にスポットを当てていた。ハッとした」と話す。

 臨床宗教師の養成は、2011年の東日本大震災を機に、東北大で始まった。同大の講座にはこれまで150人以上が受講。木下さんも13年に参加した。現在では武蔵野大や龍谷大なども講座を開講。関東や関西などでは会ができるなど、地域ネットワークも広まっている。

 仏教、キリスト教、神道など宗教の壁を越えて、苦難や悲嘆に暮れる人に寄り添う臨床宗教師は「震災を機に生まれた宗教者同士の協働の形」といえる。

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 「母が亡くなったら葬式をあげてくれませんか?」。70代女性の訪問看護に同行した3年前、木下さんは帰り際の玄関先で、娘から頼まれた。それ以降、母への思いを聞いたり、過去の写真をスライドショーにしたりした。

 亡くなる十日ほど前からは「母はほとんど食べなくなりました。悲しくて涙しています」「食べなくなって一週間になりました。息も穏やかな感じで寝ています」といったメールが届いた。木下さんは「一つ一つの呼吸が生きていることであり、一つ一つがお迎えではないでしょうか」と返した。亡くなる前日には電話があった。「もう一度だけ目を開けて私を見てほしい」。木下さんは「お母さんは見ています。あなたを包んでいます。ずっと一緒です」。

 臨床宗教師を提唱し、東北大の講座開設に尽力した宮城県の故岡部健医師は「戦後の日本は、宗教や死生観を語り、(死後の)道しるべを示す専門家が、死の現場からいなくなった」と指摘。「死と向き合う現場に、医療者とチームを組んで入れる宗教者が必要」と言い残している。

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