東京タワーを望む寺で「お寺はこれまで直球勝負をしてこなかった」と話す松本紹圭さん=東京都港区

 人口減少や過疎高齢化で檀家(だんか)制度が崩れ、仏事や墓の簡素化も進んでいる。寺を支える基盤が揺らぐ中、宗派を超えて寺の経営を指南する「未来の住職塾」が注目されている。2012年の開設以来、福井県内を含め、全国で延べ約430人が受講した。

 「これまでの寺は、ご先祖さまを大切に思う気持ちで成り立つ“先祖教”の側面が大きかった。仏教寺院としての本来の役割を果たすことが求められている」。塾長で僧侶の松本紹圭さん(37)=京都市=は、先祖供養から法話や座禅会といった教化活動に軸足を移す機会とみている。

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 住職塾は、インドで経営学修士(MBA)を取得した松本さんと、企業コンサルティングや人材育成のノウハウを持つ仲間が、一般のビジネスの知識を寺に置き換えて伝える。参加者は、自分の寺の強みと弱み、チャンスやリスクの要因を分析。寺の将来像や実現のための戦略、具体的な取り組みを盛り込んだ「寺業(じぎょう)計画書」の策定が卒業課題になる。

 宗教法人として、施設の修繕や墓地整備、住職自身の学びといった長期的な投資の見通しを立てて、お布施がなぜ必要で、どう生かすかを明確にする。「お布施は気持ちというが、納得感がなければ長続きしない。会計を透明にして、意義や使い道が分かれば信頼してもらえる」

 寺を経済的にうまく運営することが塾の本来の目的ではない。「何のために誰のためにお寺はあるのか、どういう価値観で何を目指していくのか。理念とビジョンをしっかり表現していくことが大事」と強調する。

 受講者の1人、善導寺(大野市錦町)の大門哲爾副住職(36)は「お寺の中だけで考えるのではなく、世間に目を向ければ、今後のあるべき姿が見えてくると知った。今のお寺にないものを探すのではなく、あるものを生かす考え方に共感した」と振り返る。

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 住職塾の受講者が、各地で宗派を超えたグループを立ち上げている。大門さんも、住職塾で知り合った他宗派の住職とチームを組み、4月中旬に福井市で行われた催しに参加した。「命の寺子屋」と銘打ったブースを設け、子どもたちに寺や仏教に触れる機会を提供した。

 「人間とは何かや、生きる意味のような問いが大きくなっている。仏教には本来、新たな社会の方向性を示す役割がある」と松本さん。座禅やマインドフルネス(仏教瞑想(めいそう))に関心が高まり、仏教を学びたいという人が世界的に増えていると感じている。

 これからは古刹(こさつ)や名刹、名物住職ではなく、地域の普通の寺の時代と力を込める。「数百年というお寺の継続性自体が大きな価値。何かを変えることが目的ではなく、次代にバトンをつなぐために変えるべきところを変える」。普通の寺のチーム戦が、地域の仏教文化を底上げし、これからの100年を切り開くと考えている。

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