朝夕必ずお経をあげる中山住職。2013年からは3つの寺の住職を務めている=17年4月、福井県小浜市遠敷の妙行寺

 「本堂の壁はカビだらけ。天井に張り付けたベニヤ板は波を打ち、床板はふかふかだった」。福井市門前町の妙國寺(みょうこくじ)の奥野文長(ぶんちょう)住職(52)は、この寺に入った2005年を振り返る。それまで13年間、この寺は住職が住んでいない無住寺院だった。

 寺に僧侶がいなければ、檀家(だんか)の心は離れていく。奥野住職はこの寺に来たとき、檀家総代に今後のことを相談した。返ってきたのは「好きにすればいい」という投げやりな答え。「寺をつないでいくという使命感に燃えていた分、歯ぎしりするような思いを何度もした」と話す。

 人口減少や後継者不足を背景に、住職がいない寺が増えている。「寺院消滅」の著者、鵜飼秀徳さんによると、全国約7万7千の寺のうち、無住寺院は1万5千~2万に上るという。代務住職として複数の寺の掛け持ちも少なくない。

 無住寺院のある檀家(小浜市)は「葬式や法事には代務住職が来てくれる。不便はない」。住職がいる寺院の檀家(福井市)は「住職は檀家を下に見て偉そう。墓さえ管理してくれればいいのに」と冷ややかだ。檀家の寺離れは、高額なお布施を要求するなど、僧侶の質に問題があるとの指摘も多い。

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 1月の寒い時期の1週間、小浜市遠敷にある妙行寺(みょうぎょうじ)の中山海応住職(46)は、寒修行として午後5時から同9時まで、うちわ太鼓を叩きながら外を歩く。家の前で呼び止められると、先祖供養や家内安全を願いお経を上げる。

 京都府宮津市出身の中山住職は1993年、無住だったこの寺に入った。「当時は地元の人に相手にされなかった。寒修行を止めてくれとも言われた」。それでもやり続けた。するとポツポツと呼び止められるようになり、今では寒い中、玄関先で手を合わせて待っている人もいる。

 2013年からは市内の2カ寺の住職も兼務する。兼務とはいえ、地域の寺であり続けるために、毎年新年会を開き檀家との交流を深め、寺の年中行事は欠かさない。「寺は檀家との信頼関係があってこそ」と話す。

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 宗教年鑑によると、1995年の県内寺院数は1736カ寺だったが、昨年は1685カ寺と51カ寺減った。減少率は全国平均より高い。多くの住職は「今後さらに減り続ける」と口をそろえる。寺は社会に必要とされていないのだろうか―。

 貧富差の拡大、不安定な雇用環境、超高齢化など先が見えない時代にあって、奥野住職は「多くの人は誰にも言えぬ不安を抱えている」と指摘。「素の自分になり相談したりわびたり、自分を奮い立たせたりする場が、本来の寺であるべきだ」と力を込める。

 「寺がなくなるのは、地域の伝統やしきたりが消滅するということ」と話すのは、福井市鹿俣町の浄善寺の僧侶、朝倉恒憲さん(41)。住民が寺に集い行っていた、ちまき作りは数年前に途絶えた。取り組みの中心にいた寺の坊守の義祖母は、2015年に亡くなった。

 「このままでは永久に途絶えてしまう」。昨年、住民に呼び掛け、寺でのちまき作りを復活。作り方をイラストや写真で紹介する冊子も刷った。朝倉さんは「いろんな人が集う昔ながらの寺を目指すことが、地域の文化を守ることにつながる」と話す。

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