東尋坊で自殺を図ろうとし保護された男性。今は「ボランティアで社会の役に立ちたい」と話す=2月6日、福井市内

 仕事がなくなり、金は底をついた。人生にうんざりした。大阪市出身の男性(69)=福井市=は昨年9月、福井県坂井市の東尋坊で自殺を図ろうとして、保護された。現在の生活は落ち着いており「せっかく助けられた命。社会に役立てたい」と、生きる意味を見いだしている。

  ■2日間歩き続け■

 男性は関西で建築や土木の日雇い作業員など、職を転々として生きてきた。30代後半でお見合い結婚をしたが、競馬による借金が原因で1年で離婚した。

 65歳を過ぎると仕事がなくなり、「宵越しの金を持たない」生活は苦しさを増した。炊き出しやシェルター(一時避難所)がある大阪市西成区でしばらく暮らしたが、人生がどうでもよくなった。

 昨年9月、120円の切符を買い、北陸へ向かう普通電車に乗った。南条駅の手前で、車掌から切符を見せるようにと言われたが「切符は無くした。敦賀で乗った」と言い張り、敦賀—南条間の500円を払って南条駅で降りた。金は底をついた。「着いたころには疲れ切って、余計なことを考える余裕はないだろう。死ぬにはちょうどいい」。東尋坊まで丸2日かけて歩いた。

  ■増えるパワハラ■

 警察庁の集計(速報値)によると、県内で昨年自殺したのは145人で前年比23人増。東尋坊では14人が亡くなった。東尋坊で自殺防止活動に取り組むNPO法人「心に響く文集・編集局」の茂幸雄代表(72)は「自殺志願者は中高年も多いが、近年は20〜30代の男性でパワハラに悩む人が目立つ。毎日夜遅くまで働かされ、うつ病になる。高学歴の人もいる」と話す。

 2004年に活動をスタートした同NPOは、週に6日、午前11時から日没まで3人がパトロール。これまで584人(今年1月末現在)の自殺志願者を保護した。活動を始める前の10年間の東尋坊の年間平均自殺者数は25・6人だったが、以降の10年では14・2人になった。

 国は昨年4月、自殺防止計画の策定を地方自治体に義務付けた改正自殺対策基本法を施行。厚生労働省の担当者は「地域の取り組みがより推進されるようになった」とする。

  ■たこ焼き屋台を■

 男性は疲れ切った体で自殺の場所を下見している最中に茂代表に保護された。「死んだらあかん」と言われ、おろし餅をごちそうになった。「保護されなければ、ちゅうちょなく海に身を投げていた」と振り返る。

 その後、ハローワークの紹介で7社の面接を受けたが落ち、生活保護を申請した。「ぜいたくしなければ暮らせる。ありがたい」。今は5千円で買った中古の自転車で、近くの図書館へ行くのが楽しみという。「自殺の原因はさまざまあるが、もしかしたらどれも、解決できるんじゃないか。いろんな人の助言を受ければ、何も死ぬことはないのかもしれない」と思うようになった。

 茂代表は「自殺志願者のほとんどは、できるなら社会の一員として生きたいと願っている。法施行を受け、社会全体で自殺を防ぐ体制が強化されれば」と指摘する。

 男性は若いころ、たこ焼きの露店の手伝いをしていたという。「ボランティアとして、(同NPOの)事務所の前で、たこ焼きの屋台をやりたい。お世話になった人たちに恩返しがしたい」と笑顔で話した。

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