貧困で生活が成り立たず、何度も自殺を考えたという70代の男性=福井市内の病院

 即席ラーメンは二つに割って2日に分けて食べた。申し訳ないと思いながら、他人の畑から野菜を頂戴したこともある。福井市の男性(71)は「ダイコン一本で、3日は生きられた」。

 アパートの電気やガスは何度も止められ、ろうそくの火で夜を過ごした。男性は30代で離婚し1人暮らし。2人の子どもの所在は分からない。

 ごく最近まで、1カ月の収入は国民年金の5万円だった。このうち介護保険などで約1万5千円が差し引かれた。約3万円の家賃を何カ月も滞納し、大家からは「出て行ってほしい」と言われた。

 男性は肺気腫とぜんそくで、病院の薬は長持ちさせるために間引いて服用。その後は市販の薬で我慢した。

 「階段の上り下りだけで息が切れた」が、1日8千円の解体業のアルバイトで、何とか生計を立ててきた。しかし65歳を過ぎると依頼は減り、70歳のときにはゼロになった。足羽川にかかる橋のたもとで、何度も身を投げようと思った。

 唯一の慰めは、野良猫を眺めることだった。

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 引っ越しを機に通うようになった光陽生協クリニック(福井市)は、生活が苦しい人の医療費を減免する「無料・低額診療事業(無低診)」を実施していた。男性は「命を救ってもらった」と振り返る。同クリニックの無低診の上半期(4〜9月)相談件数は2014年は13件だったが、16年は38件。認定世帯は4件から26件に増えた。

 しかし薬代は対象外で、男性の薬の間引きは続いた。スタッフから薬代も無料になる生活保護を勧められ申請。これまで「明日は何を食べようか」と眠れなかったが、ゆっくり休めるようになった。

 福井県内の生活保護世帯は06年度は1780だったが、16年10月現在で88・5%増の3356。県地域福祉課の担当者は「高齢者の単身世帯が増え、年金だけでは生活できないことが背景にある」と説明する。全体のうち高齢者世帯は56・4%を占める。

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 全日本民主医療機関連合会(民医連)の15年の調査によると、医療費が払えず受診が遅れ亡くなった人は、福井県の男性1人(70代)を含む63人に上った。男性を診察した同クリニックによると、男性は末期の結腸がんで、それまで病院にはかかっていなかった。痛みをこらえきれず搬送されたが、もはや治療できる状況ではなかった。

 遅すぎるSOS—。同クリニックの田嶋清孝事務長(36)は「多くの貧困は、非正規雇用や家族関係など構造的問題から生まれている。しかし当事者は自己責任論におびえ、声を上げられない。当事者を責めるだけでは何も解決しない」と訴える。

 国の新年度予算案では医療・介護分野の高齢者負担が増える見込みだ。世帯ごとの生活保護支給額も減少傾向が続いている。複数の医療福祉関係者は「悲しいけれど、金の切れ目は命の切れ目。これが現実」と嘆く。

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