母親(左)の着替えを手伝う男性。息子が親を介護するケースは年々増えている=福井市内

 福井市の男性(66)は、ショートステイから帰宅した認知症の母親(89)を抱きかかえ、椅子に座らせた。「着替えますよ」。母親は何も言わず腕を伸ばし、男性がパジャマの袖を通す。着替えに約10分。母親の体重は45キロ。「毎日が重量挙げですよ」

 男性は昨年の夏、母親の介護のため、東京にいる家族を残し仕事も辞めてUターンした。現在は2人暮らし。料理はできるが、下の世話や入浴はまだ慣れない。

 母親が夜中に紙パンツを脱いで、シーツがおしっこでべたべたになっていたこともあった。「思いも寄らない行動に発狂したこともある。理性を働かせないと…」。男性は自分に言い聞かせながら、一日一日を過ごしている。

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 介護をする男性15人が1月29日、福井市内に集まり、日ごろの悩みなどを打ち明け合った。「台所に立つなんて思いもしなかった」「介護をする前に比べて体重が3キロ落ちた。家内は7〜8キロ増えているのに」

 この集いに3年前から参加している同市の男性(85)は半身不随の妻(78)と2人暮らしで、介護生活は12年にも及ぶ。「死にたーい」とわめく妻にいら立ち、思わず「2人で死のうか」と言ったこともある。「会社人間だったから、近所付き合いもない。介護は孤独」と漏らす。集いに参加し、同じ悩みを抱える人と話すことで「心が解放される」という。

 2カ月に1度の集いを企画し、認知症の人やその家族を支援している福井市認知症地域支援推進員の吉田祐子さん(40)は「女性は子育て経験があり、友人らに相談するのも得意。でも男性は1人で抱え込んでしまうケースが多い」と指摘する。

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 県によると、在宅介護者による高齢者虐待の相談や通報受理件数は2014年度、228件。虐待と判断されたのは119件で、虐待したのは息子の42・4%が最多、次いで夫の16・5%。吉田さんは「思うようにいかない介護にイライラが募り、事情によっては追い詰められた末の行為。単純に責められるでしょうか」と話す。

 国勢調査によると、福井県の50歳男性の未婚率は年々上昇し、1980年は1・5%だったが、15年には18・6%に。息子が親を介護するケースは増え続けているとみられ、介護の負担を抱え込み、孤立する危険性もはらむ。親子や夫婦世帯の場合、1人暮らし世帯に比べて福祉関係者の介入は難しいのが現状。危険性を予知しても、家族から「ちゃんと見てるから大丈夫」と言われると、それ以上踏み込みにくいという。

 福井市越廼地区社協は70歳以上の独居世帯のほか、75歳以上の夫婦世帯や母親と息子の世帯を対象に月に一度、配食サービスを行っている。同市社協地域福祉課の小柏博英課長は「職場や地域がサポートし、SOSを発信しやすい環境をつくることが大事」と訴える。

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