仲間と笑顔で会話する千田千代和さん(左から3人目)。介護の悩みを打ち明けることもある=1月11日、福井県若狭町の「ラムサール『わかさ』」

 恋の思い出話を周りから勧められ「これからせん(恋をしないと)ならんのや」。福井県若狭町の前町長、千田千代和さん(79)のユーモアたっぷりの返しに、20人の高齢者が笑い声を上げる。同町で開かれる月に一度の集いは、介護の悩みを打ち明けたり、交流を深めたりする場だ。

 千田さんは旧三方町時代から12年にわたり町長を務め、2009年に退任。以来、自宅で認知症の妻勝美(まさみ)さん(78)を介護している。症状が出始めたのは約15年前。現在の要介護度は重度の5で、会話もできない。結婚して54年。夜になると、勝美さんの足元にタオルで巻いた湯たんぽを置くのが日課だ。「目が合うと、妻は笑ってくれるんや」

 町長在任中、福祉担当者から「高齢者の30%が認知症予備軍」と知らされた。「高齢化社会の大きな課題」と痛感した千田さんは、認知症の理解を進めるため、勝美さんの病気をオープンにした。現在は県内各地で自身の経験を語っている。「つらいときもあるが、認知症は病気なんだと自分を納得させることが大切」

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 福井県越前市の田中悦子さん(75)も夫の病気をオープンにした一人だ。認知症と診断された6年前、夫婦で近所約20軒を回り「ご迷惑を掛けるかもしれません」とお願いに歩いた。元気なときからの2人の決め事だった。

 夫は昼夜なく「ライオンが入ってくる」と言ったり、布団のしわを見て「人の顔がいっぱいある」と言ったり…。タンスから服を取り出し、はさみで切ってしまうこともあった。悦子さんは「最初の2年間は24時間介護状態。寝た記憶がない」と振り返る。ただ「夫もつらかったと思う」とも。「楽になれる薬がほしい」と頼まれたときは、涙で会話にならなかった。

 近所の人から「大丈夫? 奥さん」と声を掛けられたり「こんなおむつを使ってみたら」と教えられたりした。周囲の人たちは、親身になって悩みを聞いてくれた。悦子さんは「何百倍も心が楽になった」と話す。

 体力の低下とともに穏やかになっていった夫は昨年6月、悦子さんに見守られながら84歳で他界した。

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 県内で要介護認定を受けている認知症の人は2万8245人(16年)で、05年比で79・7%増。団塊の世代が75歳以上になる25年には、65歳以上の5人に1人が認知症になるとも言われる。

 病気を正しく理解し本人や家族を支えていく認知症サポーター養成などを若狭町で行っている高島久美子さんは「今の薬は認知症の進行を抑えることができる。とにかく早期発見」と話す。病院の外来を担当していた時、受診するのは重症の人ばかりで、途方に暮れる家族の姿が目に焼き付いているからだ。

 同町の人口に占める認知症サポーターの割合は70・7%(昨年9月末)で、県平均の12・1%を大きく上回る。高島さんは「地域全体で病気を正しく理解すれば、早期発見につながり、発症しても安心して暮らせる地域になる」と力を込める。

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