もろみを熟成する作業場で天然醸造の醤油の魅力を話すガラス作家の長谷川渡さん(左)と、岩尾醤油醸造元の岩尾英信さん=2月17日、福井市糸崎町の岩尾醬油醸造元

 越前海岸の潮風を浴びて天然醸造された岩尾醤油醸造元=福井市糸崎町=の「ヂガミ岩醤油」。寒暖差の小さい気候は、大豆の発酵を遅らせ、熟成にじっくり2年をかけることで深いコクが生まれる。海の幸のうまみを引き立てる優しい甘み。古里の浜の風土が育てた味を、ガラス作家の長谷川渡さん(40)は忘れられなかった。県外から帰郷して工房生活を送りながら「日常にある文化のいとおしさ」を感じている。

 子どものころから、醤油といえば「ヂガミ岩醤油」。甘くてまろやかで、刺し身にもカレイの煮付けにも家で必ず使われていた。高校を卒業して県外を転々とした間、ほかの醤油でお寿司を食べても「なんかちゃうなあ」と思った。当たり前にあったものがなくなる感覚。その残念さが想像できて、あの醤油が大事な文化だと気付かされた。

 観光地ではなく、生まれ育った場所を作品を通じて表現したくて、地元に工房を構えた。空模様や海の色、海岸の風景。そんなすごく当たり前のものを丁寧に表現していきたい。後から気付いたけれど、海とガラスは相性が合う。だから無意識のうちに、ガラス作家の道を選んだのかも。

 文化的なことを仕事にしようと勇んでガラス作家になったけれど、地元では日常にこそ文化があった。これが素晴らしいから見に来いというものじゃなくても、いとおしいと思える。でも、ヂガミ岩醤油と同じように、それらの文化は放っておいたら確実になくなってしまう。それに気付いて、焦っている人と焦っていない人がいる。

 単調な日々の中に晴れやかな日がときどきぱっと現れるのが田舎の良さ。例えば神社の秋祭りだったり。年間ちょっとの回数だけれど、それが楽しみで何でもない日々が充実する。でもそれって、観光に来ても分からない。発信の仕方は難しいけれど、それをやらないといけない。

関連記事