腹話術を使った交通安全教室を行っている中西里江・主任交通巡視員=福井県警小浜署

 高齢運転者が関係する交通死亡事故が後を絶たない。事故は、当事者だけでなく家族ら関係者も悲惨な状況に追い込んでいく。あしたも笑顔で過ごせるよう、福井県内で事故抑止に腹話術を使って安全指導に取り組んでいる女性がいる。県警小浜署の主任交通巡視員、中西里江さんに聞いた。

 腹話術を使った交通安全教室は30年になります。腹話術の人形の「しんちゃん」が、「おじいちゃん、お酒飲んだら、絶対に運転したらだめだよ!」「薬飲んで、調子がおかしいなってときは運転はしないでね」ってお願いをするんですけど、お年寄りの皆さんは怒らず、ニコニコ笑って聞いてくれます。お孫さんに言われているようで、心に残るのではないかと思います。

 私たちはもともと、子どもの安全教育のために婦人交通指導員として採用されました。当時は子どもの交通事故が本当に多くて、1年間に二十数人も亡くなったほど。教室も保育園や小学校がほとんどでした。ところが最近、対象者が高齢者にシフトしてきました。

 腹話術を取り入れたきっかけは、聞く人の気を引きたいから。交通安全教育の話というのは決まっていて、皆さん分かりきっていると思ってしまいます。また、年をとって体力や反射神経、判断力が落ちていくのは自覚しているけれど、それを直接指摘されると「面白くない」のでスルーしてしまうようです。

 そこで「しんちゃん」がずばっと「乗らないで」とか「外に出ちゃだめだよ」「道を渡るときはしっかり左右見てね」と注意しても、子どもだから許してもらえる。「しんちゃん」をきっかけに注目してもらって、身近な具体例を挙げて、心に響く教室をしようと心がけています。

 免許返納もお年寄りにとっては返すのは寂しいし、他人から返すように言われるのは耳の痛い話。そこで「おばあちゃんに運転してもらったら『後ろ見ないでバックして怖かった』って娘が言ってた」と紹介して危険性を自覚してもらったり「家族の願いで返納した後、電動車いすでこれまで通り田んぼや畑行ったり、ゴミ出ししたりしてくれているんです」と話すことで、「なんとかなるよ。案外快適に過ごしていますよ」って伝えています。

 管内でも昨年、高齢者の事故がありました。これからは集落ごとの集まりなどにも押しかけていって「しんちゃん」と二人三脚で交通情勢を伝えたいなと思っています。

 

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