1月に亡くなった女性が残した直筆のエンディングノート。子どもたちへのメッセージが記されている=福井市内

 「預金は二人の子どもで半分ずつ分けて」「軽自動車は長女に名義変更を」「散骨してください」—。40代の妻が残したエンディングノートには、夫が知らない銀行口座や保険などが細かく書かれていた。1月に妻を亡くした福井市の男性(49)は「お金のことは分からなかったので助かった。ノートに書かれた全ての希望をかなえることはできないが、夏には沖縄の海で散骨したい」と話している。

  ■遺品整理で発見■

 女性は2015年秋にがんが見つかり、昨年2月に手術。抗がん剤治療は8月まで続いた。退院後の10月上旬には長女(22)、小学生の次女、男性と4人で沖縄に出掛けるなど、体力は回復したかにみえた。

 しかし、11月中旬に再びがんが見つかり、今年1月に亡くなった。女性はみるみるやせ、歩くこともできなくなったが、男性は「亡くなる瞬間まで、妻がいなくなるとは思えなかった」と振り返る。

 亡くなった翌日に遺品整理をしているとき、市販のエンディングノートが見つかった。手術を控えた昨年1月20〜24日に書かれたもので、男性は全く知らなかった。

  ■妻と家族の思い■

 ノートは直筆で、預貯金は七つの口座が書かれており、どういった金が振り込まれ、引き出されているかなど詳細に記されていた。

 備考欄には「クレジットカードのポイントがたまっているので使い切ってから解約を」。宝物だったアニメグッズは「ネットオークションで換金し、二人の子どもで分けてください」

 通夜も葬儀もせず火葬だけを行う直葬、その後は海への散骨を望んでいた。「四十九日や一周忌など、信仰にかかわることはしないで。次女の誕生日にみんなで思い出してくれれば十分」とあった。

 結局通夜は行い、葬儀は家族葬、四十九日法要もした。男性は「妻の思いは分かるが、残された家族にとっては心の区切りも必要だった。ただ、散骨の希望はかなえてあげたい」。遺骨は自宅に置いたままになっている。

  ■何度も書き直す■

 高齢化が進む中、人生の最期に向けて準備する「終活」への関心が高まっている。2011年に立ち上がった終活カウンセラー協会(本部東京)が、13年から販売しているエンディングノートの売れ行きは約10万部に上る。インターネットによるノートの無料ダウンロードといったサービスも広がっている。

 同協会の武藤頼胡(よりこ)代表理事は「元気なうちに何冊も買って、定期的に書き直すケースは多い。これからの生き方を整理する上で有効」と話す。第一生命経済研究所の小谷みどり主席研究員は「葬儀や墓など死後に関する本人の遺志が分からず、家族が苦慮することは多い。ノートに法的拘束力はないが、家族や周りの人との関係を見直すきっかけになる」と指摘する。

 男性は自らの経験を振り返りながら「ノートには知らない口座や保険も書かれており、手続き上も助かった。ノートを囲んで、家族で思い出話に花を咲かせることもできる」と話す。

 そのノートには家族に宛てたメッセージもあり、次女にはこんな言葉を残している。「世の中には悪い人もいます。大切なものを奪うことがあります。そんなとき、自分の助けになるのは自分の知識です。自分を守るために勉強して、豊かで幸せな人生を送ってくださいね」

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