デジタル修復作業で細かく修正点をチェックする岩井さん(左)とセーレンの担当者=2016年7月、東京都港区のセーレン東京本社(同社提供)

 ベトナムを代表する絹絵画家グエン・ファン・チャン(1892〜1984年)の絵画保存修復プロジェクトに、セーレン(本社福井市、川田達男CEO)が参加し、同社のデジタル染色加工システム「ビスコテックス」が活用された。1677万色を自在に表現できる独自の技術を駆使し、絹絵を補強する「裏打ち」部分の修復を担当。新たに命を吹き込まれた作品は16日まで、東京都内の美術館で展示されている。

 グエン・ファン・チャンは、ベトナムの近代絹絵の創始者。絹絵は、絹地に水彩で描かれ、何度も画面を洗浄しながら描く独特の手法で制作される。ただ、気温や湿度、光の影響を受けやすく、高温多湿な同国では傷みが進行しやすいという。

 保存修復プロジェクトは、グエン・ファン・チャンの遺族の要望を受け、2009年に絵画保存修復の第一人者、岩井希久子さんを中心にスタートした。同社には岩井さんから昨夏に依頼があり、1939年の作品「かくれんぼ」(38センチ×65センチ)の修復に協力したほか、同作品のレプリカや展示用ポスターの制作にも携わった。

 絹絵は薄い絹地に描かれるため、作品の裏に紙を張って補強しているのが特徴。同社は劣化していた「裏打ち」の修復を担当した。古い紙を除去し、きれいな和紙をそのまま張ると違和感が残ることから、多彩な色が表現できるビスコテックスを使い、あえて汚れや日焼けがあるように仕上げた。作品の虫食いなどで欠損した部分が目立たないような染色加工も施した。

 同社の担当者と岩井さんがデジタル修復する部分をモニターなどで細かくチェックしながら、裏打ち用の和紙を完成させ、最後は岩井さんが作品の表側を補彩した。

 これまでの修復作業は、岩井さんの頭の中で完成後をイメージしながら行っていた。岩井さんは「デジタル修復で色あせた部分を再現したり、欠損部分が簡単に修復できたり完成後のイメージを事前に確認できる」とビスコテックス活用のメリットを話し、「絵画の持ち主など第三者の意向が反映できる画期的な方法だ」と絶賛した。

 絹絵のレプリカについても「シルクの表面は砂が流れるように動くためプリントは非常に難しいが、きれいな発色、深い色みが再現されすごい。まったく新しいジャンル」と評価した。

 「かくれんぼ」を含む今回の修復プロジェクトでよみがえった作品約20点は16日まで、東京・上野の森美術館で開かれている「女たちの絹絵」展で展示されている。10日夜のオープニングセレモニーで、セーレンの坂上剛専務は「今後も世界中の美術品の修復に役立てたい」とあいさつ。絵画を所有するベトナムの親族は「修復は大成功」と感謝のメッセージを寄せた。

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 ■グエン・ファン・チャン 絹絵のパイオニアとして知られる画家。1925年にフランス人が設立したインドシナ美術学校の1期生として、西洋の造形技法と東洋の平面的な画法を組み合わせた全く新しい技法を開拓。「ベトナム近代絹絵」というジャンルを創出し、ベトナム農村部の女性や風景をモチーフにした作品で知られる。

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