直葬では、遺体は亡くなった病院から葬儀場の安置所にいったん移され、火葬場へ運ばれる。葬儀場に設けられた祭壇は遺影もない=福井市内の葬儀場

 「がんになった妻は『葬式にお金を使うなら、子どもに残して』と言っていた」。福井市の向正彦さん(49)=仮名=の妻は、今年1月亡くなった。エンディングノートには「通夜も葬儀もせず(火葬だけの)直葬にして」とつづられていた。

 「いくらなんでも」という親せきの反対で、直葬ではなく家族葬にした。通夜のときは一晩中、妻が好きだった坂本龍一さんの音楽を流した。

 2年前に向さんの父が亡くなったときは、150人以上の弔問者があった。今回の家族葬は、せいぜい30人。しかし向さんは「ちゃんと妻を見送れたような気がする。あれで良かった」と振り返る。

 ノートには「墓は、いりません。散骨してください」ともあった。妻の思いをかなえるため、骨壺(つぼ)は自宅に置いたままになっている。

   ■  ■  ■

 弔問を受け入れ通夜、葬儀を行う一般的な葬儀のほか、近親者だけの「家族葬」、通夜を行わない「一日葬」、そして「直葬」…。故人の見送り方が多様化している。

 中でも小規模な葬儀が増えている。福井市のある葬儀社では、ここ3、4年で家族葬が急増し、葬儀の約3割を占めるまでになった。

 理由の一つには高齢化や貧困がある。病院の延命技術が向上したことで、長い間病院で寝たきりとなり、亡くなるまでの入院費がかさむ。葬儀社「オームラ」(福井市)の新尋誠常務(47)は「入院費を払い続けてきたため蓄えがなくなり、直葬を選ぶ家族もいる」と話す。県内の葬儀社には「葬儀を安く済ませたい。家族葬はいくらかかるの?」。こんな相談もある。

   ■  ■  ■

 簡素化の理由に核家族化を挙げるのは、葬儀社「法美社」(福井市)の佐藤尚登業務部長(62)。「祖父母が子や孫に葬儀について伝える場や、仏壇がある環境が少なくなった」とし、別れの儀式に価値観を見いだせなくなっていると推測する。

 「葬儀会館建設など利便性を重視した葬儀をすすめ、葬儀の意味や本質を訴えてこなかった業界全体にも責任がある」と話すのは冠婚葬祭業を営む「アスピカ」(同)の藤澤隆一はくれん事業部次長。その反省から、事前相談の場を利用して、葬儀の本質を伝えている。「いずれ葬儀自体がなくなってしまうかもしれない」という危機感も強い。

 葬儀は故人への感謝と縁が集まる場所。弔問者が訪れることで、故人のつながりを家族が実感する場でもある。

 しかし向さんは「僕たち夫婦はその必要性を感じなかった」。妻の墓はなく、自宅には仏壇もないが、妻の友達が時々やって来る。「これ持ってって」と、眼鏡などの遺品を渡すと喜んでくれる。向さんは「妻が大好きだった服やアニメグッズは大切に残しておく。それを見て、家族で思い出す。それでいいんじゃないでしょうか」。

 ヒマワリが大好きな向さんは、娘にこう言っている。「お父さんが死んだら、どこかヒマワリ畑の近くに骨を埋めて」。半分冗談だが、それで十分とも思っている。

関連記事
あわせて読みたい