モニターでひなの様子を見守る(右から)前田利博さん、重屋一弘さん、下野育代さん、恒本ひとみさん=14日、福井県越前市都辺町のしらやまいこい館

 福井県越前市白山地区で守られた命が、世代のバトンをつなぎ戻ってきた。1971年に同地区で保護された国の特別天然記念物コウノトリ「武生(コウちゃん)」の孫に当たるひなの誕生が確認された14日、武生を見守った当時の白山小児童は吉報を特別な思いで受け止めた。「元気になって帰ってくる」。里山に上がった産声は、46年前の“約束”が果たされた証しだった。

 70年12月に同地区に飛来した武生は下くちばしの一部が折れていた。餌がうまく取れず、衰弱する一方だった。見かねた子どもたちが、小川や田んぼの用水路を回り、ドジョウやフナを集めた。「コウちゃん」と愛称を付け、観察日誌を書いた。

 当時白山小5年生の重屋一弘さん(58)は、「餌集めは楽しかったし、何よりコウちゃんを何とか助けたかった」と振り返る。同じ5年生だった恒本ひとみさん(57)は、武生が保護のためのわなに掛かった瞬間を鮮明に覚えている。「網の中で飛びたそうに羽を広げようとしていた」

 武生が保護された日の夜、地元の体育館で「お別れ会」が開かれた。下野育代さん(57)は、初めて間近で武生を見て「双眼鏡で観察していた時は大きく見えたのに、痩せてものすごく小さく感じた」という。

 兵庫県豊岡市の人工飼育場(現在の同県立コウノトリの郷公園)に移った武生は、94年に“一人娘”の「紫」をもうけた。紫は2005年に初めて武生の孫を生み、22歳になった現在はひ孫ややしゃごもいる。

 豊岡市で武生の飼育に当たった松島興治郎さん(75)は、別れを惜しんだ白山の子どもたちの様子が頭を離れなかった。「弱っていた武生がパートナーを得て、子孫を残したのは奇跡的。武生を大切に思う気持ちをずっと持ち続けてくれた白山・坂口の人たちのためにも、子孫が定着してほしい」と語った。

 白山小の同級生を中心に結成した「コウちゃんを愛する会」の事務局長、前田利博さん(57)は「いつか子孫が白山に飛んでくると信じていたが、違う形で実現した。ひなの誕生は新たな物語の始まりで、無事に成長してほしい」と顔をほころばせた。

 福井県の鳥獣保護担当職員として武生を捕まえた林武雄さん(85)は「武生の血統が戻り、やってきたことが無駄ではないと感じられた。当時の子どもたちが持っていた生き物や自然を大切にする気持ちを、今の子どもたちにも受け継いでいってほしい」と願った。

関連記事