今回の東日本大震災のような、私達の想像を遥かに超えた規模の自然災害を目の当たりにすると、私達の気持ちはどうしても日本にいる友人達のことを思い、重くうち沈んでしまいます。こんなときに、生きていることの素晴らしさを感じることは容易ではありません。現実世界の危機に直面して、私達はニュースに釘付けになり、そして、大人同士の会話の中でショックを受けた気持ちを吐き出すことに手一杯になってしまいます。その結果として、子どもは、自分の理解の範疇を超えるイメージや会話に四六時中さらされ、いいようのない不安感を募らせることになります。特に、自分の力ではどうにもしようのない出来事、実際に自分の目で確かめることができない出来事に対してはなおさらです。子どもはどうせ聞いていないだろうと思いがちですが、まだ、言葉を話せない赤ちゃんでさえ、周りの大人達の心の内側の状態にとても敏感に反応します。

しかし、こんな時だからことそ、子ども達の命の輝きを強め、日々の暮らしをしっかりと歩めるよう助けてあげたいですね。そのためには、子ども達の周囲を善良で喜びに満ちた雰囲気で包んであげることが何よりも大切なことだということを、私達、大人はしっかり心に留めておきましょう。子ども達が大人の中に見出したいのはこういうことです。- - - 私は生きていることに心から感謝しています。自分の周囲の世界に強い関心を持ち、この世界のどこかにしっかりと根を下ろしたいと願います。- - - このような大人からのメッセージを受け取り、自分の生きる力にしたいと思っているのです。子ども達は、人生がもたらすどんなことにも、立ち向かうことができる、開かれた心を持って生まれてきます。一人一人の運命や試練は様々ですが、どんな状況の元に生まれてくる子どもにも、この開かれた心を見ることができます。こうした子どもの世界に身を置くわれわれ大人には、この開かれた心を育てる大いなる可能性が与えられているのです。

人生を歩み始めたばかりの子どもにとって、その最初の数年間を導いてくれるお守りの言葉があります。それは、「この世界は善良で美しい」-これ以外ありません。何度も転んでは立ち上がることを繰り返す中で、子どもは、神秘的とも言える出会いの数々を経て、「自分はできる」という自己信頼感と、「どうしてもやりたい」という情熱( やる気) を獲得していきます。この人生に対する絶対的な信頼感は、子ども時代を通過するために天から与えられた虹の架け橋のようです。この架け橋なしには、子ども達は、自分の殻の中に閉じこもり、目の輝きも失うでしょう。やってみたいという果敢な冒険心もなえてしまうでしょう。子どもがよくやる、もっとも単純な実験の数-積み木を積み重ねたり、お皿を洗ったり、逆さまに洋服を着てみること-の中で、大人には見えないことを発見する力、思いもよらない全く新しい解決法を構想する力もなえてしまうでしょう。 子どもが自分の気持ちを表すことができるのなら、きっとこう言うでしょう。「 この世界は善良で美しい。だから、僕はここにやって来たんだ。探検して、不思議を見てみたい。立ち止まってじっと見て、触って、出会いたい。そして、僕のもとにやってくるすべてを、興味と自信を持って迎えるんだ。」

『恐怖感』は、子どもを立ちすくませます。そして、子どもが本来持っている信頼感、開かれた心、そして世界に対する尽きない興味をしぼませてしまいます。知性、情緒、肉体のどれをとっても、子どもが健全に成長するためには、子ども自身が自分を取り巻く世界の中に喜んで入っていけることが前提条件です。自分がこの世界に喜んで迎えられていると感じること、そして何よりも、この世界は安全だと感じることが大切です。私達大人だって、自分のおかれた環境に不安があるとき、身がすくみ、新しいことを試してみたり、ちょっと危険を犯してみるなんてことはできませんよね。

しかし時には、我々にはどうすることもできない危機に面し、先行きが全く見えない不安やもっとひどい状況に陥ることもあるでしょう。そしてあえて付け加えるならば、今の時代は、だれもが一瞬先も見えない時代に生きているとも言えます。けれども、子ども達は、ついこの間、人生を歩み始めたばかりなのです。私達は、彼らの生まれながらの願いをかなえてあげる責任を負っています。この願いとは、要約すればこうでしょう。「この世界は善良で美しい。僕は、この世界に生きていることがうれしい。ありがとう! 」- この世界は、私が育つのに安全な場所であって欲しい。大きくなったら、今よりずっとずっと大きくなったら、世界の痛みと重荷を背負うことができるように成長します。でも今はまだ、子どもでいさせて下さい。安心して人生の素晴らしさを見つけることができる時間と場所をください。その中で人間としての強さ、能力、勇気、情熱を身につけていきたいのです。でもどうか今は、大人時代の試練から私を守って下さい。

では、どうやったら子どものこの願いをかなえてあげられるのでしょうか?子どもには理解も消化もできない情報から、守ってあげること。子どもの前では、大人の会話を差し控え、テレビやラジオを消しましょう。毎日の生活に規則正しいリズムとパターンを確立してあげることは、子どもを強くします。次に何が起こるか予測でき、来る日も来る日も同じことが繰り返されることで、この世界の良さ、安全さを日々感じることができるからです。

「幼い子ども達は、鋭い観察眼を持っていますが、まだ十分な解釈力はありません」と、以前誰かが言っていました。私も含めて多くの親達が、このコメントの正しさを実感しているのではないかと思います。地球規模の問題、国内や海外の政治的状況、職場での試練、そして私たちがそれぞれ抱える、苛立ち、怒り、恐れ、このどれをとっても、幼い子ども達の理解を超えるものです。どれも、幼い子どもが消化し栄養とできる献立でないことは明らかですね。子どもに一度取り込まれたこのような情報や大人の感情表現は、多くは因果関係がはっきり見出せないまま、子どもの不安、恐怖、神経質さや引きこもり、睡眠障害や攻撃的行動となって子どもに現れます。

幼い子どもの傍らに立つ大人は、絶対的な確信を持って人生に臨むことで、子ども達の良きモデルとなる可能性を与えられています。私達は、子ども達と並んでに歩むとともに、ほんのわずか先を歩みながら彼らをこの世界に導き出してあげることができるのです。私達は多くを見て、経験してきました。それは、歓び、痛み、苦しみ、学び、祝い、落胆、そして時に恐れととまどい、これらが混ざり合った融合体です。これらすべての経験や感情をへて、その蓄積を持って私達は親業に臨みます。大人である私達は、これらの様々な感情や経験を自由に見つめたり、じっくり振り返ったりすることができます。

ニュースをつけると、悲惨な出来事ばかりの現代社会にあって、「この世界は善良で美しい」という強い信念を、どうしたら手にすることができるでしょうか?  実は、これこそ、つまり過酷な現実世界の中にありながらも、この信念を強めようと努力を続けることこそが、人間としてできるもっとも崇高な仕事です。子ども達は、私達の後ろ姿を羅針盤として、この世界にこぎ出そうとしています。私達の心のあり方、一番奥深くにある感情や信念を模倣し、吸収します。そして、私達から取り入れたものは、子ども達の船の竜骨となり、子ども自身が今だと決めた時機に、より広く大きな世界にこぎ出していく力となるのです。

まずは、散歩に出かけてみましょう。できれば自然の中へ。そして、最近起きた良かったことを思い出してみましょう。今、どんなに難しく思えても、人生の善良なものへ思いを馳せて、それに対する感謝の気持ちで初め、同じ気持ちで終える努力をしてみて下さい。野花のブーケなど、自然界からの季節の贈り物を拾って家に飾ってみましょう。雪が消えたと思ったら地面から芽を出すユキノハナやクロッカスの不思議、一粒のどんぐり、ピカピカに磨き上げられた赤いリンゴ、こういった一つ一つのものが、宇宙の深遠な美しさと魔法を垣間見せてくれます。夜空を見上げてみましょう。星ぼしの光は、私達一人一人も地上の星であることを思い出させ、力を与えてくれるでしょう。詩をみつけましょう。あなたが、これまで詩に興味がなかったとしても、ほんの数行でいいのです。紙切れに書き写して、冷蔵庫に貼ってみて下さい。また、かつてあなたを助けてくれた人のことを思い出してみて下さい。そうして、こういった一歩一歩が、どんなに小さな一歩でも、困難に直面している私達に、「この世界は本当に善良で美しい」という事実を再発見させてくれることを、是非、実感して下さい。


世界にしっかりと両足で立ち

明瞭さを持って道を歩む

私の核心には愛を満たし

全ての行いに希望を流し込む

思考には確信の刻印を押す

これらの5 つによって私は目標に辿り着く

これらの5 つによって私は輝く

~ルドルフ・シュタイナー

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筆者紹介 Susan Weber:公立学校での教職、管理職を経て、長年シュタイナー幼稚園で教師として勤める。後に、Antioch Universityにて、シュタイナー教師養成講座のコーディネーター、また生涯教育の教授として教鞭を取る。ハンガリーのブタペストにて、Emmi Piklerの教育法の資格を取得。これらの全ての経験を生かして、現在、 ニューハンプシャー州キーン(Keene,NH)に所在する、0歳から3歳までの教育を専門的にサポートするSophias Hearth Family Centerの所長兼教師として、 親と教育者のための教育に力を注いでいる。 (同施設は保育所と、親子教室を併設している。)また全米各地、海外を回って、講演活動も目覚ましい。現在も、週に一度の親子教室の指導を同センターにて担当中。

Susan Weber Sophias Hearth Family Center March 2011

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