3月、4月は巣立ちの時期、そして新たな生活が始まるとき。別れと出会いの季節でもあります。

40余年間の保育園でも、たくさんのお子さんが巣立っていかれました。その間にはいろいろな障がいをもたれたお子さんも巣立っていかれました。その障がいの程度も様々でした。

先日のことです。体に障がいのあるお子さんの入園をお受けしたまま、その責任を果たすことなく園をやめることになり、いつも心にかかっていたお母さんやそのご家族の方から、もう卒園なので、卒園までに是非会いたいという連絡があったという伝言がありました。責任を果たせずに申し訳ないという思いからも是非にお会いしてそのお子さんの成長ぶりや、お母さんやご家族のお話も伺いたいと思い、お宅にお邪魔していろいろとお話させていただきました。

その日は偶然にも10年ほど前に卒園され、まぶしいくらいに成長された上のお子さんにもお会いすることができました。「私よりも大きくなって」と、そのお子さんを笑顔で見上げられるお母さんのまなざしは、成長の喜びとうれしさであふれんばかりでした。ご不自由な体でここまで育てられたお母さんにとっては、まさに“子宝”そのものだなあと、その光景を私も心からうれしく拝見させていただいたのです。

話を伺いながら、卒園されようとしているお子さんのこれから始まる学校生活やそれに続く生活の中で、ご本人の努力はもちろんのこと、ご家族や様々な方のお力をいただきながら、ご本人の中でかしこさとして光っていた天与の宝をさらに磨いて輝かせていっていただきたいと心から願わずにはいられなかったのです。そしていつかご本人の幸せはもちろん、その輝く宝を家族をはじめ多くの人と分かち合える人へと成長していってくださることを心から祈る思いでした。

そして最年長の私の孫も6年間の小学生活を終えて卒業しました。いつもどこかに出かけた折、車を降りるとき‘ばあちゃんありがとう。今日は楽しかったよ’の言葉を忘れない、そして‘卒業式には、ばあちゃんも来てね’の心からの言葉をかけてくれるやさしさを持った、しかし何かと心にかけてきた子です。

自分で仏様にお供えした卒業証書を目にしたとき、生まれた時からのいろいろなことが走馬灯のように思い起こされてくるのです。このシーズンはそのようにこれまで出会ってきたいろいろなお子さんに関することが思い起こされるシーズンでもあるようです。

子どもの誕生を迎えて新しく始まる生活では、新たにいろいろなことの準備が必要になります。衣に関する準備、食に関する準備、住に関する準備。さまざまな準備が必要となります。

衣に関するものといえば、丸裸で産まれてくる赤ちゃんのためのまずは着る衣類。オムツの準備も必要でしょう。オムツは最近では紙おむつが主流となっている時代ですから、これまでのように布オムツを縫って用意する方はもうほとんどおられないと思います。

しかし、私が在職中には、心あるお母さんは、赤ちゃんの体や排泄の習慣づけをも考えられてでしょうか、それとも地球環境をも考えられてでしょうか、布オムツを用意されておられる方も何人かおられたものです。私たちの子育ての時代には当然布オムツ。縫ってあるオムツも売っていましたが、たいていは親が縫って用意してくれるものでした。私は縫ってくれる親もおりませんでしたのですべて自分で準備し、オムツも手縫いで一人に60枚ぐらいは縫ったように思います。

食に関しての準備は母乳が出れば離乳期までは特別の準備はいらないですが、出ない人や足りない人は、ミルクの準備が必要となってきます。そして住としての準備は、赤ちゃんが安らかに過ごせる環境としての赤ちゃんの過ごす部屋やベッド、あるいは布団の準備が必要になります。何かと慣れずに忙しいとき、すぐにはできないかもしれませんが、赤ちゃんを迎えての“生活を整えていくこと”はとても大切なことになってきます。

生活を整えるとは、どういうことでしょう。
・生活のさまざまな流れ、例えば一日の流れ・生活のリズムを整える。
・住まいの整理、整頓をはじめとする住生活。
・規則正しく体にとって安心、安全なものをいただくための食生活。
・身支度を整えることから始まる、衣に関する生活。
そうした生活のすべてにわたって整えるということです。

仕事があって毎日整えたくても忙しくてできない人や、生活を整えることが苦手な人にとってはとてもやっかいなことかもしれません。しかし、生活を整えるということは何においてもとても重要なことなのです。特に赤ちゃんを迎えて始まる生活や、子どもの育ちにおいては子どもの精神を安定させるという意味で子育ての重要な要素でもあるのです。生活が整い親御さんの精神が安定していると子どもの呼吸も整い、心も安定するのです。

保育園でもお子さんが何か落ち着きがなかったり、気になることがあったりする場合、まずご家庭の様子をお聞きすることがよくあるのです。おうちで何かあったり、親御さんに何か心配なことがあったりして不安な状態のときにはすぐにお子さんに現れてくるものだからです。特に小さいお子さんの場合、おかあさんの状況にはとても敏感なものです。

そして“生活を整える”ということは“心を整えること”につながるように思われます。 “心を整えること”により“生活が整ってくる”のかもしれません。どちらが先なのかわかりませんが、“心が整うこと“と“生活が整うこと”は相乗関係にあるようです。