イラスト・fuプロダクション

総社大神宮に至る目抜き通り(中央)。一帯の車乗り入れをなくし、子育て世代が集う特区を空想してみた=福井県越前市府中1丁目から撮影

田中謙次さん

三木あいさん

吉田亮太さん(左)、小野寺康浩さん(右)

 ◎越前市・提案編

 JR武生駅前から総社大神宮に至る目抜き通り。道の真ん中を走る水路の近くで、たくさんの子どもたちが遊んでいる。この約400メートル区間は車の乗り入れが全面禁止。「子育て特区」を掲げ、移住スポットとなった越前市のまちなかを象徴する場所だ。沿道のオープンカフェにはママ友たちの姿も見える。

 約1平方キロメートルの特区内には、子どもが無料で乗れる木製の観覧車がある。市武生中央公園にあった観覧車の“2代目”として設置された。特区の近隣には、リニューアルされた同公園のほか、「鉄道ミュージアム」や「伝統工芸体験テーマパーク」といった施設も相次いでオープンした。福井鉄道福武線につながるミニ環状線「たけふ子ども線」が各施設を結んでいる。

 かつて多かった空き家のうち状態のいいものはリノベーションされ、個性的な賃貸物件に。町屋型の新築集合住宅も人気だ。中学生以下の子どもがいる家庭は、市が家賃補助する。

 特区内の寺院は、商店主ら地域のさまざまな職業の大人が講師となるワークショップや、学童保育の会場として重宝されている。市の新庁舎にも、一時預かり所が設けられた。点在する路地は「子育ての小道」として整備され、遊び場や地域の高齢者との交流の場になった。

 外国人親子の姿も目に付く。市内に多くのブラジル人がいた時代から多文化共生に力を入れた結果、教育熱心な在日外国人が集まった。日本人の親の国際化志向も相まって特区の人気を高めている。

  ×  ×  ×

 県内9市の担当記者がまちの人たちと一緒にアイデアを膨らませ、空想のまちづくり事業として提案する連載。第4回は越前市編をお届けします。

 ◎越前市・根拠編
 
 子育て世代集うまちなかに 資源磨き、移住者呼ぶ

 田中さん「目抜き通り周辺 武生版セントラルパークを」
 三木さん「境内で映画上映 すぐにできそう」 
 吉田さんと小野寺さん「路地をライトアップ 「車不要」は売りに」

 越前市は2012年、子どもの自立に向け家庭や学校、地域、行政が協働することを定めた「子ども条例」を県内で初めて制定した。子育て支援にも力を入れ、昨年策定した市総合戦略では「子育て・教育環境日本一」を掲げた。同市のまちなかはJR武生駅から近く、コンパクトで移住する場合の条件も悪くないはず。「子育て世帯が集うまちなか」を空想してみた。

 同市のまちなかは古代に越前の国府があったとされ、古くから発展してきた地域。寺院が集まる京町や本町、越前箪笥(たんす)の製造業者が軒を並べるタンス町など、歴史を感じさせる場所も多い。提案にある目抜き通りの水路も、旧北陸道にあった町用水がモデルだ。歴史的資源を組み合わせれば、個性的で魅力的な子育てのまちになるはずだ。

 構想では、目抜き通りの車乗り入れを禁止している。同市の地質コンサルタントで環境や文化など専門的視点から「川のあるまちづくり」に取り組む田中謙次さん(45)は「先進国ではウオーカブル・シティー(歩きやすい街)の価値が高まっている。総社までの通り周辺はいっそ、(ニューヨークの)セントラルパークのような公園にしては」とイメージを膨らませる。

 路地を「子育ての小道」として整備する案は田中さんのアイデア。「細い道は、地域の人が近所の子をみてあげる場所として活用できそう。多くの自治体は狭い道を広げようとするが、まちの宝になりえる素材では」と指摘する。

 「近くに子どもが遊べる場所があるのが、この地域の魅力」と提案に賛同してくれたのは、同市のまちなかに住むグラフィックデザイナー三木あいさん(37)。「各寺の境内で映画を上映しては。子も親も良質なエンターテインメントに数多く触れられる。これならすぐにできそう」とアイデアをくれた。8年間生活したニューヨークでは公園などで野外上映が行われ、人気を集めているという。公園のそばには「今どきのお母さんがSNSで発信したくなるようなコーヒースタンドがほしい」。

 まちなかにある大宝寺の副住職で1児の父でもある吉田亮太さん(34)は「この辺りの寺は車通りから入った所にあり静か。子どもの学習の場として十分活用できるのでは」と話す。「迷路みたいで幼い頃のいい遊び場だった」という細い路地は「京町や蔵の辻周辺のように暖色系の明かりでライトアップすれば、夜に出歩く場所ができ、さらににぎわいを生むはず」。

 同市地域おこし協力隊の小野寺康浩さん(26)は「(立ち乗り電動二輪車)セグウェイを使い、特区全体を車乗り入れ禁止にしてもいいのでは」。「車不要」は、移住を呼び込む際の売りになると強調する。高校卒業者を対象とした仕掛けとして「箪笥や打刃物、和紙など伝統工芸の専門学校があるといい」。特区出身者の多くが地元に定着すれば、地域の活力につながるだろう。

 ◎越前市・調査編

 ■住宅整備推進が前提

 越前市は人口減対策のマスタープランとして昨年策定した総合戦略で「子育て・教育環境日本一」を掲げている。記者の提案も市の政策も、子育て環境の良さを武器にするという方向性は同じだ。

 では、市内の特定エリアで「子育てのまち」をつくることは可能なのか。市総合戦略推進室に尋ねると「総合戦略で示したということは、まちづくりにも子育て環境を重視する方向性が必要ということ。しかし、地域を限定しての優遇策は、市民の理解を得るのが難しい面もある。実施するとしても期間を区切るのが一般的」と説明する。

 市は現在、まちなかの1・4平方キロメートルを対象に中心市街地活性化基本計画(中活)の改定に向け、策定委を設けて検討を重ねている。計画が国に認定されれば、交付金が優先的に配分されるメリットがある。特区構想の約1平方キロメートルは中活の区域とほぼ重なる。空想の提案にもあった「鉄道ミュージアム」は、具体的な計画には至っていないが、中活に整備事業の一つとして盛り込まれる予定だ。

 構想で車乗り入れを全面禁止とした目抜き通り(約400メートル)について、中活ではシンボルロード化を進める方針。市に車乗り入れ禁止の実現性を聞くと、「策定委でも歩行者空間を広げる意見は出ている。ただ、周辺には多くの施設があり全面禁止は厳しい」(都市計画課)。

 路地の活用や保全については、和紙産地の五箇地区や中心市街地の4町(元町、本町、平和町、若松町)で「市住みよい街づくり推進条例」に基づく計画や協定により景観を保全している実績があり、地元の合意ができれば可能性はあるという。

 一方、構想の前提といえるのがまちなかでの住宅の提供だ。市によると中活区域にある空き家は390軒、空き地は183カ所。だが、この辺りの建物や土地は動きが少なく、まちづくりの課題になっているとも聞く。住まいの整備を進める方策はないのか。

 市不動産業協会の山口誠一代表理事によると、アパートやマンションの建設用地としては300坪程度のまとまった土地が必要だが、中心市街地にはそうした空き地が少ない。半面、まちなかの元映画館跡地に2年前建設された家族向けの集合住宅(10戸)は即座に埋まったという。山口代表理事は「まちなかの集合住宅は訴求力がある。土地をまとめ成功例を積み重ねていけば、積極的になる地主も増えるはず」と語る。

 同協会と連携し、まちなかの空き家や空き地の利活用に取り組むまちづくり会社「まちづくり武生」の一人は「古い町屋を現代生活に合った形でリノベーションすると、1千万円程度かかる場合もある。金融機関と連携し、若い世代がお金を借りやすくする仕組みがあると活用が進むのでは」と提案してくれた。

 実際、京都や滋賀の金融機関では町屋の購入や改修を対象とした低利のローンを商品化しているという。こうした形で空き家のリノベーションが進めば、まちの価値を高め、さらなる投資にもつながるだろう。好循環を生むためには、さまざまな機関の協力が必要だ。

 ◎【記者はこう見る】実現可能性45%

 子育てや教育の環境は、私たちが思っている以上に越前市の売りになりそうだ。実際、Iターン組の市職員の一人は、子育て環境の良さが移住の決め手だったという。

 今回の取材を通して、特区出身の若者の定着を見据えた、伝統工芸の専門学校設立というアイデアをもらった。「子育てのまち」に長期的な視点で取り組めば、その効果は大きいはずだ。越前市のまちなかには歴史に基づく個性があり、このまちを継承、発展させる人材の育成にもつながるだろう。

  ×  ×  ×
 
 連載「空想まちづくり」越前市編の感想、意見を募集しています。連載は福井新聞ホームページからもご覧になれます。福井新聞武生支社=電話0778(23)1221、FAX0778(23)1942、メールはmachidukuri@fukuishimbun.co.jp

関連記事
あわせて読みたい